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はやくおとなになりたい

みぞ西
はやくおとなになりたい






身長差でいうなら32センチ、年齢でいうなら10歳。
僕と智さんの間にある大きな差。
僕はいつも、その差がはやく縮まらないかと、神様に願ったり、先祖に願ったり。
年齢はどうしようもないから、せめて見た目で大人っぽく見えるようになりはしないかと、着る服を変えてみても、やっぱり彼の隣に立ってしまえば僕は子供で。
身長が早くのびるように、背が伸びると聞けば何でも試してみる事にした。
でも今のところ、効果はどれもいまいち。
周りの大人達は、小学校を卒業したら、自然に身長も伸びて、声も低くなって大人になるからというけれど、それにはどれだけ時間がかかるのか。
自分でも、これからのびるんだから大丈夫と言い聞かせるけれど、言い聞かせたすぐその後に、それじゃあその間に彼が僕との約束を忘れてしまうんじゃないかと焦る。
だって僕は、悔しい事にまだ10歳だから。
かれは、20歳。
どうしたって埋められない、大きな溝。越えられない壁。
(神様、どうして僕を智さんよりこんなに遅く生まれさせたんですか?)
なんども繰り返した答えの無い問いかけ。でもじっくり考えてみれば、じゃあ彼と同じ年に生まれていたら、どうだろう。ここに僕がいて、智さんと知り合えるかどうかは、不明だ。
「はあ・・・・不毛だ・・・・」
目の前の、飲めもしないコーヒーを見つめて小さく呟く。
コーヒーの真っ黒い闇に、自分の情けない顔が写った。
「んっ?どうしたの、みぞれくん。・・・・やっぱりミルク、入れる?僕もミルク入れるよ?」
頭上から、美味しいお菓子の匂いと、コーヒーの匂いを纏った智さんの声がして、見上げたら、にこにこと優しい顔でこちらを見つめていた。
大人になってまだ同じ気持ちだったら、なんて、つい先日困った顔をして言ったというのに、こんなに簡単に僕を家に招き入れるなんて、本当に、相手にされていないのが分かって辛いのに。
でも、会えなくなったらもっと辛い。
「あ、・・・じゃあ、お願いします。智さんと同じだけでいいので」
「そう?僕はコーヒーにはミルクは多めで砂糖少なめ・・・・っとこんなものかな?」
「ありがとうございます、・・・・いつもこれですか?」
カップを傾けて口に運びかけて智さんはぴたりととまり、また、目を細めて笑った。
「そうだね。ブラックも美味しいけど・・・・こっちの方が、なんだか心があったまるでしょう?」
言われて飲んだコーヒーは、確かにすこし苦みの残っているものの、甘くミルキーで美味しかった。
「ブラックコーヒーは飲まないんですか?」
口の中に広がり、鼻からぬけていくコーヒーの香りを楽しみながら、聞く。
「う〜ん、ブラックコーヒーは・・・・大人の男性?ってかんじかなあ。僕はコーヒー大好きだけど、ブラックは実はそんなに得意じゃなくって。ブラックが美味しくなったら僕も一人前?だね」
「そうですか・・・」
ならば、僕はせめて、この身長が伸びるまで、彼の言う大人になるまで、ブラックコーヒーを飲んで少しでも彼に近づこう。



そうしたら、すこしでも、彼が僕を大人に見てくれるに違いないから。









(・・・・苦い・・・・)





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