薔薇の花束
みぞ西(時代が歪んで動いている音とリンク)
薔薇の花束
僕が初めて彼に贈ったのは薔薇の花一本。
どうして一本だったかなんて、そんなの小学生のお小遣いで買えるのは一本が限界だったからに決まっている。
本当は、ドラマみたいに100本の薔薇の花束を贈りたかったのに、花屋さんにいって薔薇の花の値段を見た瞬間悔しさで一杯になった。
でも僕がなけなしのお金で買った薔薇を見て、彼は一言、微笑みながら
「ありがとう」と言った。
優しい、ふんわりとした笑顔に、耳まで熱くなったのを覚えている。
それから、お金を貯めて、何度も何度も薔薇の花を贈った。
親がくれるお小遣いではたかが知れていて、一回ではせいぜい一本だったのだけれど、他にはなにも要らないから、貰うたびに彼に薔薇を買った。
学校ではそんな事を誰が知ったのか、度々、「お前薔薇何に使ってんの?」とからかわれたし、伊織にはそんなお金の使い方をしてはいけないと言われた。
でも、なんど贈っても、彼はいつも、本当に嬉しそうに笑ってくれたから、その笑顔がみたくて、やっぱり薔薇を買っていた。
薔薇の花には本数によって意味が有るのだと、贈るのが習慣になった頃、お店の人が教えてくれた。
「ご存知ですか?薔薇の花束って、本数によって意味があるんですって。諸説ありますけど、一本だと「只あなただけ」3本で「貴方を愛しています」9本で「いつまでも末永く」、11本で「最愛」、12本で「円満」、24本で・・・「いつの時もあなたが恋しい」、33本で「3回生まれ変わっても3回愛する」・・・あ、3っていう数字には、何度もっていう意味があるそうなんです。・・・で、えー、50本で「恒久の愛」、99本で「とこしえに変わらない」、100本で「共に白髪の生えるまで」ですって。」
彼女は僕が頼んだ薔薇の花束を綺麗にまとめながら、また続ける。
「101本で「永遠への到達」、108本で「尽きる事の無い愛」、365本で「毎日毎日貴方が恋しい」、・・・・999本で「何回生まれ変わっても永久に変わらない」、1000本で「一万年の愛」・・・・はい、できました。」
「あ、ありがとうございます・・・・でも、すみません、もう一本追加してもらってもいいですか?」
今日、買ったのは23本。あと一本足せば、「いつの時も貴方が恋しい」という意味になる。薔薇の本数の意味を彼が知っているとは思わないが、一方的でもいい、彼がこの花束を、花束に込められた思いごと受け取って笑ってくれると思うと、そうせずにはいられない。
「かしこまりました。・・・・お客様はいつも薔薇を買っていかれるので、きっとどなたか思い人に贈られるんでしょうねって思って・・・じつは、調べたんです。薔薇の意味。」
彼女は笑い、一本を綺麗に追加して言った。
「そうだったんですか・・・・なんだか・・・・えっと・・・ありがとうございます」
その日、薔薇を持って彼の働くバーを尋ねたら、やっぱり彼はにっこり笑って、言った。
「ありがと、みぞれ」
それからも何度も薔薇の花束を贈った。
この薔薇の花束の意味を教えてくれた花屋の彼女は、結婚して、子供ができたと笑っていた。だから、僕も彼女に言った。
「僕も、ようやく、薔薇を贈っていた人と結婚する事が出来たんですよ」と。
そうしたら、彼女は何故か涙ぐんで、よかったですね、よかったですね、おめでとうございます、と言って、その日は薔薇の花束を買うつもりではなかったのに、おまけにと薔薇の小さな花束を贈ってくれた。本数は9本だった。
「智さん、智さん・・・・外はとってもいい天気ですよ。・・・もう桜の季節ですね・・・ほら、花びらが風に煽られて落ちて来てます」
病室で、眠ったままの彼にそう言う。
彼と結婚して10年が経った年だった。彼は病に倒れ、つい先日から意識が無い。意識があった頃も病室にもなんども薔薇の花束を持ってきていたけれど、やっぱりあの時と変わらず、彼はにっこり笑って本当に嬉しそうにしてくれていた。
会えないのが嫌だからと、僕が病室に泊まると言ったのに、彼は聞き入れてくれなかった。
「それじゃあ、みぞれまで病気になっちゃうでしょ?ちゃんとお家に帰って、お風呂に浸かって、あったかいお布団で寝なきゃ・・・ね?」
そう言ってくれたけれど、家に帰ったって眠れるはずもない。
いつも隣にあった筈の温もりも、気配もなにも無い。微かな、本当に微かにするかしないか分からないくらいになってしまった、枕に残る彼の香りだけしか、そこにないのが僕には耐えられなかった。時折意識を失うようにして短く浅い眠りをとる以外は、暗闇の中、じっと、彼がいつも寝ていた隣を見つめて夜明けを待った。
人工呼吸器や心電図、点滴に繋がれた彼を見ていると、涙が出そうになる。
ピッピッと機械の音が響く。
一時はERに入れられていた彼だけれど、ようやくそこから出る事ができて、これから少しでも快方に向かうのだと思ったのに、医師は、「恐らく意識は戻らないと思われます。・・・あと何日保つかも・・・」と苦虫を噛み潰したような顔をして言ったのだった。
「・・・智、さん・・・・・」
顔色も白に近く、固まって動かない彼に触れる事が、何故だかできなかった。
「失礼します。主治医の検診の時間ですので・・・」
じっと背後で扉の開く音がして、医師と看護士が入って来た。
入ってくるなり、彼らは血相を変えて俄に病室が慌ただしくなる。
「え、ど・・どうしたんですか?」
怖くなって医師に尋ねると、
「危篤状態に入っています。・・・・処置はしますが・・・」
「・・・・!!」
僕はハッとして病室から駆け出していた。
嫌だ、離れたくない。行かないで欲しい。そう思って、自分でも何がなんだか分からずに走った。気がつけば僕は薔薇の999本の花束を、綺麗にまとめる事もせずに、抱えて病院に戻っていた。
何度か、「走らないでください!」と言われた気もするし、誰かに打ち当った気もする。でも、そんなことを構っていられる場合じゃなかった。
「智さん!」
病室に着いた時には、医師も、看護士も、智さんの前に立って、俯いていた。
「・・・・・せん、せい?智さんは・・・・」
薔薇の花束を抱えたまま、なんだか小さく見える彼の傍に寄ると、立ちすくんで僕を待っていた医師は、重々しく口を開いた。
「・・・・いま、亡くなられました。」
「さとる、さん・・・・・?」
腕から力が抜けて、薔薇の花が僕の周りに散らばった。
話しにくいし、僕とキスができないからと残念そうにしていた人工呼吸器も、もうない。鼻に通されていた管を取り、普段通り、でも顔色は紙のように白い、そしてもう動かない彼に口づける。
いつもなら、恥ずかしがって、照れ笑いをして返してくれるのに、唇にあたるのはまだ少しだけ残った彼の温度。
「智さん、・・・・薔薇の花束・・・・今度のは999本なんですよ。知ってました?999本で、何回生まれ変わっても永久に変わらないって、意味があるんですって。・・・・・・ねえ、だから、何回生まれ変わっても、貴方がどんな不細工だろうと、おばあちゃんだろうと、人間じゃなかろうと、必ず見つけますから・・・だから、ずっと、愛してますから、ッ・・・・、お願い、・・・・っ、智さん・・・・!目を、開けてくださいよ・・・、」
涙でにじむ視界に、彼に掛けられた布団の上に、さっきの薔薇が数本。
本数は、3本。
貴方を、愛しています。
:
僕が初めて彼に贈ったのは薔薇の花一本。
どうして一本だったかなんて、そんなの小学生のお小遣いで買えるのは一本が限界だったからに決まっている。
本当は、ドラマみたいに100本の薔薇の花束を贈りたかったのに、花屋さんにいって薔薇の花の値段を見た瞬間悔しさで一杯になった。
でも僕がなけなしのお金で買った薔薇を見て、彼は一言、微笑みながら
「ありがとう」と言った。
優しい、ふんわりとした笑顔に、耳まで熱くなったのを覚えている。
それから、お金を貯めて、何度も何度も薔薇の花を贈った。
親がくれるお小遣いではたかが知れていて、一回ではせいぜい一本だったのだけれど、他にはなにも要らないから、貰うたびに彼に薔薇を買った。
学校ではそんな事を誰が知ったのか、度々、「お前薔薇何に使ってんの?」とからかわれたし、伊織にはそんなお金の使い方をしてはいけないと言われた。
でも、なんど贈っても、彼はいつも、本当に嬉しそうに笑ってくれたから、その笑顔がみたくて、やっぱり薔薇を買っていた。
薔薇の花には本数によって意味が有るのだと、贈るのが習慣になった頃、お店の人が教えてくれた。
「ご存知ですか?薔薇の花束って、本数によって意味があるんですって。諸説ありますけど、一本だと「只あなただけ」3本で「貴方を愛しています」9本で「いつまでも末永く」、11本で「最愛」、12本で「円満」、24本で・・・「いつの時もあなたが恋しい」、33本で「3回生まれ変わっても3回愛する」・・・あ、3っていう数字には、何度もっていう意味があるそうなんです。・・・で、えー、50本で「恒久の愛」、99本で「とこしえに変わらない」、100本で「共に白髪の生えるまで」ですって。」
彼女は僕が頼んだ薔薇の花束を綺麗にまとめながら、また続ける。
「101本で「永遠への到達」、108本で「尽きる事の無い愛」、365本で「毎日毎日貴方が恋しい」、・・・・999本で「何回生まれ変わっても永久に変わらない」、1000本で「一万年の愛」・・・・はい、できました。」
「あ、ありがとうございます・・・・でも、すみません、もう一本追加してもらってもいいですか?」
今日、買ったのは23本。あと一本足せば、「いつの時も貴方が恋しい」という意味になる。薔薇の本数の意味を彼が知っているとは思わないが、一方的でもいい、彼がこの花束を、花束に込められた思いごと受け取って笑ってくれると思うと、そうせずにはいられない。
「かしこまりました。・・・・お客様はいつも薔薇を買っていかれるので、きっとどなたか思い人に贈られるんでしょうねって思って・・・じつは、調べたんです。薔薇の意味。」
彼女は笑い、一本を綺麗に追加して言った。
「そうだったんですか・・・・なんだか・・・・えっと・・・ありがとうございます」
その日、薔薇を持って彼の働くバーを尋ねたら、やっぱり彼はにっこり笑って、言った。
「ありがと、みぞれ」
それからも何度も薔薇の花束を贈った。
この薔薇の花束の意味を教えてくれた花屋の彼女は、結婚して、子供ができたと笑っていた。だから、僕も彼女に言った。
「僕も、ようやく、薔薇を贈っていた人と結婚する事が出来たんですよ」と。
そうしたら、彼女は何故か涙ぐんで、よかったですね、よかったですね、おめでとうございます、と言って、その日は薔薇の花束を買うつもりではなかったのに、おまけにと薔薇の小さな花束を贈ってくれた。本数は9本だった。
「智さん、智さん・・・・外はとってもいい天気ですよ。・・・もう桜の季節ですね・・・ほら、花びらが風に煽られて落ちて来てます」
病室で、眠ったままの彼にそう言う。
彼と結婚して10年が経った年だった。彼は病に倒れ、つい先日から意識が無い。意識があった頃も病室にもなんども薔薇の花束を持ってきていたけれど、やっぱりあの時と変わらず、彼はにっこり笑って本当に嬉しそうにしてくれていた。
会えないのが嫌だからと、僕が病室に泊まると言ったのに、彼は聞き入れてくれなかった。
「それじゃあ、みぞれまで病気になっちゃうでしょ?ちゃんとお家に帰って、お風呂に浸かって、あったかいお布団で寝なきゃ・・・ね?」
そう言ってくれたけれど、家に帰ったって眠れるはずもない。
いつも隣にあった筈の温もりも、気配もなにも無い。微かな、本当に微かにするかしないか分からないくらいになってしまった、枕に残る彼の香りだけしか、そこにないのが僕には耐えられなかった。時折意識を失うようにして短く浅い眠りをとる以外は、暗闇の中、じっと、彼がいつも寝ていた隣を見つめて夜明けを待った。
人工呼吸器や心電図、点滴に繋がれた彼を見ていると、涙が出そうになる。
ピッピッと機械の音が響く。
一時はERに入れられていた彼だけれど、ようやくそこから出る事ができて、これから少しでも快方に向かうのだと思ったのに、医師は、「恐らく意識は戻らないと思われます。・・・あと何日保つかも・・・」と苦虫を噛み潰したような顔をして言ったのだった。
「・・・智、さん・・・・・」
顔色も白に近く、固まって動かない彼に触れる事が、何故だかできなかった。
「失礼します。主治医の検診の時間ですので・・・」
じっと背後で扉の開く音がして、医師と看護士が入って来た。
入ってくるなり、彼らは血相を変えて俄に病室が慌ただしくなる。
「え、ど・・どうしたんですか?」
怖くなって医師に尋ねると、
「危篤状態に入っています。・・・・処置はしますが・・・」
「・・・・!!」
僕はハッとして病室から駆け出していた。
嫌だ、離れたくない。行かないで欲しい。そう思って、自分でも何がなんだか分からずに走った。気がつけば僕は薔薇の999本の花束を、綺麗にまとめる事もせずに、抱えて病院に戻っていた。
何度か、「走らないでください!」と言われた気もするし、誰かに打ち当った気もする。でも、そんなことを構っていられる場合じゃなかった。
「智さん!」
病室に着いた時には、医師も、看護士も、智さんの前に立って、俯いていた。
「・・・・・せん、せい?智さんは・・・・」
薔薇の花束を抱えたまま、なんだか小さく見える彼の傍に寄ると、立ちすくんで僕を待っていた医師は、重々しく口を開いた。
「・・・・いま、亡くなられました。」
「さとる、さん・・・・・?」
腕から力が抜けて、薔薇の花が僕の周りに散らばった。
話しにくいし、僕とキスができないからと残念そうにしていた人工呼吸器も、もうない。鼻に通されていた管を取り、普段通り、でも顔色は紙のように白い、そしてもう動かない彼に口づける。
いつもなら、恥ずかしがって、照れ笑いをして返してくれるのに、唇にあたるのはまだ少しだけ残った彼の温度。
「智さん、・・・・薔薇の花束・・・・今度のは999本なんですよ。知ってました?999本で、何回生まれ変わっても永久に変わらないって、意味があるんですって。・・・・・・ねえ、だから、何回生まれ変わっても、貴方がどんな不細工だろうと、おばあちゃんだろうと、人間じゃなかろうと、必ず見つけますから・・・だから、ずっと、愛してますから、ッ・・・・、お願い、・・・・っ、智さん・・・・!目を、開けてくださいよ・・・、」
涙でにじむ視界に、彼に掛けられた布団の上に、さっきの薔薇が数本。
本数は、3本。
貴方を、愛しています。
:
PR
西條事情
店主:西條
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
メルフォは下にあります。
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
