雷乃チ声ヲ収
伊日。
かみなりすなわちこえをおさむ
蒼く澄み切ったそらに、雄大にもったりと腰掛けていた雷雲は姿を消して、代わりに鮮やかな鱗雲が姿をみせはじめた。空気もひんやりと澄み、この時期独特の太陽の光を反射させた。
つい先頃までは、夕方でもまだ少し明るかったのに、いまとなっては、この時間、息を呑む程に美しい、紫と、影の作る黒、太陽の赤の織りなす幻想的であり、なおかつどこか故郷、というものを思わせる、感傷的にならざるを得ない世界を作り出している。
ああ、また、季節は巡り、この年も終わりに向かい始めた。
そう感じ始めると、去年の今頃はどうして居ただろうか、と考えだして、また懐かしく胸が締め付けられるのだ。
ふわり、と風が、まだ仕舞っていない簾を揺らす。
湯呑みを持つ手を、風が撫でた。
「・・・」
何故だか胸が震えて、痛くて、じわり、目頭が熱くなった。
偶然を装って、彼の人の家を尋ねたら、予想は外れて、呼び鈴に答える声はなかった。
いつもなら、少しも待たされる事無く、彼の「はいはい、ただいま」という声とともに、愛犬の「きゃわん!」という元気な声がして、この磨りガラスの扉の向こう、彼の姿が見えるというのに。
一体何があったのだろう。夕方17時を30分も過ぎて、いつもなら彼の事だから、食事の準備でもしているのだと思ったのに。
首を傾げつつ、引き戸に手をかけたなら、思いのほか簡単に扉がするすると開いた。
「日本?入るよ〜」
ぼそっと声をだして断ってから、きちんと靴を脱いで上がる。
部屋に灯りも灯していない。家の中を、影が闇が支配している。陽の沈む方向から、赤っぽい光が入ってまるで火事だ。
心臓が嫌なくらいにドキドキしている。また、この前の夏のようになっていたら?と思うと、手にじわりと汗が滲む。
「にほーん、何処〜?ぽち〜たま〜?」
不安になりながら、しかしなんとか落ち着けようと自分に自分で言い聞かせ、不必要に大きな声を出して怖いという感覚を吹き飛ばす。
いつのも、居間を覗けば、彼は机に突っ伏して規則正しい寝息をたてていた。
「何だ・・・・よかった・・・・」
黒い、艶艶とした髪を撫でる。
この夏、ここへ彼の様子を見に来たとき、それは酷い状態だった。
そのあと一緒に過ごして、彼はもう元気になったと思っていたから、何かあったのならそれを察知できなかった自分が悔やまれるのだ。しかし、何ともなかった。
彼は、ただ寝ていたのだ。確かに、珍しくはあるけれど。
その感覚に違和感があったのか、日本はくぐもらせた声を小さく吐くと目を開いた。
「あら・・・・イタリアくん。どう、なさったんです?」
ほんわりぽかん、とした寝起き特有の気怠さで首を傾げる。
「呼び鈴鳴らしたけど、迎えて来てくれないし、なにかあったのかと・・・・思った」
起き上がる日本の手を掴んで、ぎゅっと握る。
灯りも付けない薄暗い部屋の中でも、彼が少し、動揺して赤くなっているのが分かる。
「えっと・・・すみません、心配させてしまいましたね。いろいろ振り返っていたら眠たくなってしまいまして。・・・・・・こんな時間なのにご飯の準備もまだ何も出来てないんですね、私ったら」
赤くなって照れていたと思ったら、急に物悲しい顔つきになるものだから、これもまた珍しくてついつい笑ってしまった。
「あはっあはは、日本、変なっ顔〜〜ヴェ、ヴェ〜!あはは」
「ええっ何ですかイタリアくん?ちょっと、こら、笑うんじゃない!ご飯は大事なんですからね!」
「ひぃひぃ、うん、分かるよ、俺もパスタとワインは大事だもん。・・・じゃあ、日本、ご飯食べに行こうか?俺、お蕎麦が食べたいな!」
「蕎麦ですか、いいですね。行きましょう」
まだ少しだけ青っぽい夜に成りきらない空の下、輝き始めた月を見上げた。
「日本?どうかした?」
立ち止まったせいで、首を傾げて斜め前から振り返っている彼に視線を戻すと、なんでもないです、と返して彼の手を攫って走った。
蒼く澄み切ったそらに、雄大にもったりと腰掛けていた雷雲は姿を消して、代わりに鮮やかな鱗雲が姿をみせはじめた。空気もひんやりと澄み、この時期独特の太陽の光を反射させた。
つい先頃までは、夕方でもまだ少し明るかったのに、いまとなっては、この時間、息を呑む程に美しい、紫と、影の作る黒、太陽の赤の織りなす幻想的であり、なおかつどこか故郷、というものを思わせる、感傷的にならざるを得ない世界を作り出している。
ああ、また、季節は巡り、この年も終わりに向かい始めた。
そう感じ始めると、去年の今頃はどうして居ただろうか、と考えだして、また懐かしく胸が締め付けられるのだ。
ふわり、と風が、まだ仕舞っていない簾を揺らす。
湯呑みを持つ手を、風が撫でた。
「・・・」
何故だか胸が震えて、痛くて、じわり、目頭が熱くなった。
偶然を装って、彼の人の家を尋ねたら、予想は外れて、呼び鈴に答える声はなかった。
いつもなら、少しも待たされる事無く、彼の「はいはい、ただいま」という声とともに、愛犬の「きゃわん!」という元気な声がして、この磨りガラスの扉の向こう、彼の姿が見えるというのに。
一体何があったのだろう。夕方17時を30分も過ぎて、いつもなら彼の事だから、食事の準備でもしているのだと思ったのに。
首を傾げつつ、引き戸に手をかけたなら、思いのほか簡単に扉がするすると開いた。
「日本?入るよ〜」
ぼそっと声をだして断ってから、きちんと靴を脱いで上がる。
部屋に灯りも灯していない。家の中を、影が闇が支配している。陽の沈む方向から、赤っぽい光が入ってまるで火事だ。
心臓が嫌なくらいにドキドキしている。また、この前の夏のようになっていたら?と思うと、手にじわりと汗が滲む。
「にほーん、何処〜?ぽち〜たま〜?」
不安になりながら、しかしなんとか落ち着けようと自分に自分で言い聞かせ、不必要に大きな声を出して怖いという感覚を吹き飛ばす。
いつのも、居間を覗けば、彼は机に突っ伏して規則正しい寝息をたてていた。
「何だ・・・・よかった・・・・」
黒い、艶艶とした髪を撫でる。
この夏、ここへ彼の様子を見に来たとき、それは酷い状態だった。
そのあと一緒に過ごして、彼はもう元気になったと思っていたから、何かあったのならそれを察知できなかった自分が悔やまれるのだ。しかし、何ともなかった。
彼は、ただ寝ていたのだ。確かに、珍しくはあるけれど。
その感覚に違和感があったのか、日本はくぐもらせた声を小さく吐くと目を開いた。
「あら・・・・イタリアくん。どう、なさったんです?」
ほんわりぽかん、とした寝起き特有の気怠さで首を傾げる。
「呼び鈴鳴らしたけど、迎えて来てくれないし、なにかあったのかと・・・・思った」
起き上がる日本の手を掴んで、ぎゅっと握る。
灯りも付けない薄暗い部屋の中でも、彼が少し、動揺して赤くなっているのが分かる。
「えっと・・・すみません、心配させてしまいましたね。いろいろ振り返っていたら眠たくなってしまいまして。・・・・・・こんな時間なのにご飯の準備もまだ何も出来てないんですね、私ったら」
赤くなって照れていたと思ったら、急に物悲しい顔つきになるものだから、これもまた珍しくてついつい笑ってしまった。
「あはっあはは、日本、変なっ顔〜〜ヴェ、ヴェ〜!あはは」
「ええっ何ですかイタリアくん?ちょっと、こら、笑うんじゃない!ご飯は大事なんですからね!」
「ひぃひぃ、うん、分かるよ、俺もパスタとワインは大事だもん。・・・じゃあ、日本、ご飯食べに行こうか?俺、お蕎麦が食べたいな!」
「蕎麦ですか、いいですね。行きましょう」
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店主:西條
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
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