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花珠

伊日。
コクリコ主題歌とオーダーメイドと消しゴムを混ぜた。
花珠















潮風が、ゆるい坂道の間を通り抜けて山の方、空に向かうようにして吹き抜ける。
空は胸が痛む程に青く澄んでいた。
船の汽笛が町中に響いて、待つ人、行く人の別れの涙を誘った。
風が、薄い窓ガラスを叩いて、かたかたと音を立てる。
ふと、筆を置いて外を見れば、丁度、船が音も無く海の向こうに滑り出したところだった。
只管に蒼く輝く空と、太陽の光を反射して七色に光る海の青が水平線の向こうで繋がるその場所に向かい進む船を見つめる。
この果てしない海の向こう、東の果てに帰した彼の居る場所へ行くのだろうかと。
「おい、飯、できてるぞ」
ぎし、と油の少ない蝶番が音を立てて扉が開き、聞き慣れた声が届いた。
「・・・・・うん・・・・・」
食欲はまったくと言っていい程ない。けれど、律儀にもこの兄は毎度準備をして呼びに来てくれるから、それを断る事は出来ない。
味覚の消えた舌で、味もわからないまま生命維持のために食事をして、そしてまたここへもどって絵を描くのだった。
「ほら、お前の好きなボンゴレだ。早く食っちまえよ」
彼はカラフェからコップへ水を注ぎながら、顎でそれを示した。
蒼くて綺麗なお皿に、きらきら光る宝石みたいなそれ。
この目は青色以外の何も映さない。全てが、ソオダ水越しに見ているみたいな、綺麗な水面から底を覗き込んでいるような、そんな色をしていた。
「・・・おいしい、ね」
そう言えば、彼は顔を歪めて、笑顔にならない笑顔を寄越した。

深夜、目が覚めた。
こんなことは、自分が覚えている限り初めてのことだと言っていい。
ゆっくりとベッドを出て、暗く闇色に輝く海が見えた。
階下から、話し声が聞こえて、体が強ばった。
そっと、音を立てないようにして階段を下りる。
昼間、食事をしたリビングから、灯りが一筋、漏れ出ていた。
「今はもう、あいつは何も覚えてないんだよ・・・・。時々、思い出すけど・・・記憶も疎らだ。かえってお前を傷つけることになるんだ。」
「でも!ずっと、ずっと探していたんです!お願いです、眠っているところだけでも良いんです、一目だけ、会わせてください・・・!」
彼と、誰かが言い争っているのが、押し殺しているのであろう声でもしっかりと聞こえる。
あいつとは誰で、もう一人の方が一体誰なのか、解らなかった。
「ね、誰かいるの?」
そっと扉を押せば、小さなちからでもゆっくりとその扉は開いた。
ハッとして息を呑む音が響く。
「ふぇ、フェリシアーノ、くん・・・・!」
その人は、何かを呼んで、大きな黒い眸から涙を溢れさせて崩れ落ちた。
何を見ても、青色にしか見えなかった世界が、その人だけしっかりと切り取って見える。
黒々とした髪も、眸も、知らない筈なのにとても懐かしく感じて、初めて会う筈なのに、どうしようもなく愛しかった。バター色の膚も、赤い唇も、なにもかもが美しくそして愛しかった。
「はじめ、まして?俺、俺・・・・・名前、なんだっけ。」
「貴方の名前はフェリシアーノ、ですよフェリシアーノくん」
その人は止まらない涙をそのままに、そういった。
「そっか、俺、フェリシアーノ!君は?」

「本田、菊といいます、」
彼は涙もそのままに、しっかりと笑ってみせた。
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店名:三日月商會
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