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タイムトリップで見えたもの

ロヴィ菊。
「君が誰かを〜」「僕は君を〜」の続きです

タイムトリップで見えたもの













夏がもうすぐ終わろうとしている。
日差しもずいぶんと落ち着いて、今はもう葉も少しずつ色づき始めていた。
相変わらず、文字に囲まれて毎日を過ごしていると、不意に、物語の中に入り込んで帰って来れないことがある。
どこかぼんやりとしていて、脳みそが暖まってしまって思考がたゆたう水の中にあるような、そんな感覚だ。
「じゃあ、本田さん、行きましょう!」
後輩のティノくんがにっこりと笑った。
またあの季節が過ぎて行った、そう思ってまた思考の海に飲み込まれようとしていたところで、丁度いいタイミングだった。
「ああ、ありがとうございます。皆さんももう行かれます?」
振り返ると、いつもの、懐いてくれているメンバーはすでに準備が出来ているようだ。
読んでいた本をぱたん、と閉じて椅子から立ち上がる。
なにも休館日に出勤することまでつき合わなくてもいいのに、とは思うが、彼らにとっても勉強にはなることだから、それは言わない。正直なところ、家で一人でいるのが辛くてここへ来ているのだから、誰かが側に居て、話すでもなく隣で本をそれぞれ読んでいるだけでも安心するのだ。
「今日は前に言っていたラテン料理のお店です!すごく美味しいって評判なんですよ。」
ティノくんが嬉しそうに笑う。隣の三人もそれぞれに期待の表情をしており、嫌でもこちらも期待が募った。
「・・・・ん、んだっけ・・・もう行がねぇと間に合わね」
「そうだね、ランチタイム過ぎちゃうし。」
鍵をしっかり確認して、図書館に別れを告げた。

「へえ、ここですか、なんだかここだけヨーロッパみたいですよねえ」
店は想像していたよりもずっとよかった。外観は、本当にヨーロッパのようで、道路に面しているファサードの面積からはそれほど大きくないのだが、テーブルと椅子が並べられて、14時をまわった今は座っている人が居ないが、昼時ならさぞかしにぎわっているだろう。
庇の色も美しく、日の光を庇の色に染めて壁に映している。
看板にはこれもまた美しい文字で、「Crisantemo」と書かれていた。
「こんにちは〜」
相変わらずほんわり、元気のいい声でいつものようににこにこしながら店の中に入って行く彼に続き、店の中に入ると、やはり外観だけでなく、内装も本当にどこか異国に旅にきたようだった。
わざと作り出したという雰囲気も無いのだった。
「あ、いらっしゃいませ〜。ああ、ティノくんやんかあ!」
聞こえて来たその声に、ハッとした。聞き覚えのある関西弁だったのだ。
顔を上げていいのか、悪いのか、しかし、後ろには偉丈夫のベールヴァルドさんがいる。今更とって返す事もできないだろう。他人の振りをするべきか、どうか。そもそもどうしてこんなに気まずいのか、それは自分が、あんなに仲の良かった彼らに何も告げずに、逃げるようにしてあの場所を去ったからだ。
足先を見て、考えている間にも、彼らは話題を広げていて、心配そうにこちらを覗き込んでくるビョルンさんやイースさんの視線を知らない振りをした。
「あれ・・?もしかして、菊ちゃん?なあ、ロヴィ、フランシス、菊ちゃんや!」
「えっ」
アントーニョさんだけじゃなかったのか、その、初めに発せられた名前に、全身の血が頬に集中してしまっている気がした。頬が、耳が熱い。
あの夏の、湿った唇の感触が蘇ったのだ。
「何?菊とここの人、知り合いな訳?意味わかんない」
イースくんがふてくされた声で言った。
「・・・・・菊ちゃん!」
こらえきれずに顔を上げたら、じっとこちらを見ている彼と目が合った。
目をそらしてしまうくらいに熱い眼差しに、今にも逃げ出したい。あの夏の日、あの時の唇、あの日最後に見た彼の走っている姿が、脳裏に鮮明に蘇る。
自分は何も言わずに逃げたのだ。嫌悪の視線を予想していたのに、予想外の眼差しに背筋を汗がひと雫辿って落ちた。
「菊、」
掠れた声が名前を呼んだ。




「あんなあ、この店の名前な、日本語に直すと「菊」って言うねんで!こいつ、菊ちゃんが何も言わんと転校してからもずうっと、菊ちゃんのこと好きなままやねん。」
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西條事情

店主:西條

リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
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