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村時雨

伊日。
別れ話です。もしかすると・・・続く予感
村時雨













帰り道の小学生たちが、傘を逆立てて、雨受けにして楽しそうに歩いて行く。
思えば昔、水たまりに足を突っ込んで、靴を浸水させるのが楽しかった。
朝、出かけに雨が降るからと、長靴を履かされてしまった日は、つまらなかったけれど、それでもわざと水が深く溜まっている所を選んではざぶざぶと進んで行き、結局水浸しになって帰るのだ。
そんなことを、頭の片隅にふっと思い出しながら、雨で水面に波紋がたくさんできている田んぼを見やった。
その向こうの細いあぜ道を、菊が歩いていた。
ちっとも振り返る気配もなく、ただ前だけを見て進んで行く彼は、傘をさしていない。
けれど、雨に濡れるのは構わぬ様子だ。
その理由は、自分が一番、痛いくらい知っている。打たれた頬も痛い。
「泣いちゃ、駄目だってば・・・・」
後から後から流れ出て止まらない涙に、自分で自分に言うけれど、それでも涙は止まってくれない。土砂降りでよかったと思った。
いつもにこにこ笑って、赦してくれる彼だから、いつもの調子で少し困った顔をして、赦してくれると思っていたのだ。まさか、泣くとも、怒るとも思わなかった。
あの、この頬を打った後の呆然として唇を噛んだ彼の顔が、頭から離れない。
彼はもうずいぶん遠くに行ってしまった。まだ、泣いているだろうか、自分のように。
「ごめん、ごめんね、菊・・・・。」

「あれ?何?フェリちゃん別れたの?」
周りのみんなに嫌という程、菊とつき合い始めた頃に誇って吹聴した所為で、別れた事がバレるのも早かった。
とっても簡潔に言うなら、心変わりだ。
別れよう、終わりにしよう、と言ったときから、この胸がじくじく痛むのを除けば、そういう事に成る。
「ん、うん・・・・」
答えると、ギルベルトはにんまりと笑ったし、その後ろのアントーニョやフランシスは、確か、共に自分よりも菊との付き合いは長かった筈だ。手をこまねいているという顔をしている。
「まあなあ・・・確かに小さくて可愛い面してるっちゃしてるけど、・・・もっと可愛い女が五万と居る訳だし、なにもあいつじゃなくっちゃだめって訳じゃねえもんな。・・・しっかも本田は暗ぇしーー!」
「菊ちゃん暗いとか言えるん、お前あほっちゃう?」
「本当、ギルも馬鹿だね〜」
菊と別れた後に、何人か女の子とつき合った。
なのに、どうしても、長続きしない。原因はやっぱり自分だったのだけれど、彼女たちは皆口を揃えていったのだ。何をしても上の空、自分の事を見て欲しかった、と。
菊の顔が、ずっと頭から離れない。抜けない刺のように、じくじく痛んで仕方ない。
背後で騒ぐ三人の声なんて、遠くにしか聞こえなかった。

「・・・変だな、痛くて仕方ない・・・」
離れてから気がついた。
自分が思うよりもっとずっと、自分が彼の事を好きだったということを。
空を見上げたら、あの日のように、どんよりとした黒々と大きな雨雲が、風で今にも天を覆い尽くそうとしていた。
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