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初夏

伊日ss
初夏












庭の先、その向こうにある田んぼから、蛙の鳴き声が連なって夜空に木霊する。
もうそんな季節なのかと、有名なアニメの一場面を思い出してふっと感傷に浸った。
この季節、この蛙の声を聞くと、必ず過ぎ去りし日を思い出すのだ。
遠く、遠く、過去に置き去りにしてしまった自分のなかの良い記憶、懐かしく、今とは違う価値観の上で生きた、幸せな日々。
確かに今も変わらず、問題もあれば幸せな事もあるのだが、どうしたって取り返す事の出来ない景色を思い出しては、下を向いてしまうのだった。
夜空には、満天の星が輝いている。真っ暗闇の中、庭先もおぼろげにしか見る事が出来ないが、じっと、見つめた。
「日本?」
不意に背後から声をかけられて、どきっとして振り返る。
もう何度も来ているから着慣れただろう浴衣を着て、タオルを肩にかけたイタリアくんが、寝間に丁度はいって来たところだった。
今夜は少し蒸すから、と言って、もう灯りを消した部屋の中、雨戸を開けて、蚊帳を取り出してつっていた手を止めてしまっていたので、すみません、とひとこと言って立ち上がろうとしたのだが、早々にそれは阻まれた。
「・・・どうしました?」
背中に当たる温かな彼の湯上がりの体温と、湿気がふんわりと彼の使ったお気に入りの石けんの香りがする。
風はすこし温度が低く、じっとりとした汗ばむ体を冷やしてくれる。
「あのね・・・・俺、さっきすっごくドキッとしちゃった。日本があんまりにも綺麗だったから」
「ちょっと・・・・恥ずかしい事をそんな・・・」
一体何がそんなに彼の心に響いたというのだろうか、分からず身じろぎをして抜け出そうとして、失敗してしまった。
蚊帳も途中だというのに、と思いながらも、彼の熱い唇や、手が体を這うのをそのままに、雨戸のその先、暗い庭の上、輝く白い月を見上げた。
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