あるリモーネ農家の話
ロマ日。
リモーネ農家なロマとそこに嫁いで来た日。
ロマの口調がさっぱりわかんねえ
リモーネ農家なロマとそこに嫁いで来た日。
ロマの口調がさっぱりわかんねえ
あるリモーネ農家の話
自分で言うのもなんだが、自分はとても、人付き合いが苦手だと思っている。
人付き合いが苦手、というと、すこし語弊があるかも知れない。
例えば街に出て店の人と話すのは平気だし、近所付き合いも積極にとまではいかないが、そこそこ。別に話すのが億劫とか、知らない人は怖いとか、そういう訳ではないのだが、何となく、深く立ち入られるのが嫌なのだ。
いや、では無いかもしれない。違和感がある、その程度だ。
なのに、この人は簡単にその垣根を通り越して跨ぐ。驚く程なんの違和感も無く。
例えば、隣に居て、話もせずに、ぼーっとしているのに、居心地が悪くなったことは一度も無かった。
ただ、ぽっかりと空いていた空洞が、ぴったりはまる何か暖かい物で満たされるのを感じるだけだ。
小さいなりをしているのに、どこかどーんとしていて、安心感がある。
今頃家で何をしているのか、やっぱり連れてこれば良かったかと考えながら、燦々と照りつける太陽を仰いだ。
誰も居ないこの屋敷の中、自分だけがこの白い壁が美しいキッチンに立って、包丁を握っている。彼は、何時間か前に畑に出て行った。
時計を見れば、もうそろそろ昼の時間だ。今日は天気がいいから、外で食べるのもいいかも知れない。
レモン畑の、青々と茂った葉の下、作り置いたテーブルセットで海を望みながら食事をするのが、とても好きだった。
ワインと、焼きたてのピッツァ、あとはなにかスープでも持って行こうか。
大きな、水筒に野菜の沢山はいったスープを入れて、カップとグラス、包丁やもろもろの準備物を籠に詰め込む。
「ああ、そうだ・・・」
これを忘れていは行けない。手に取った赤いテソロ。これも彼が、似合わず器用な手先で丁寧に作った愛情豊かな逸品だ。
裏口から出ると、この地方独特の、しかしどこか母国と似ているレモン畑がすぐ見える。
彼はきっと、だいぶと下の方まで行っているのだろう。
物音一つしない。
さわさわと風が吹いて、レモンの爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
柔らかな地面を下って行くと、海の見える中段ほどに、彼の姿が見えた。
「ロヴィーノさん!」
聞こえるように、すこし大きな声を出すと、気がついたのか、彼はゆっくりと振り返った。
日焼けした膚に、茶褐色の髪、この国ではどうか知らないが、母国ではそうとうな器量の持ち主だともてはやされるだろう美貌が、こちらをひたと見つめていた。
「ああ、なんだ、もうこんな時間か、ちくしょ、」
「なんです?そんなに作業が進まなかったんですか?」
時計などしない彼は、畑に出た時は、昼食に呼びにくるのを時報にしている。
問うと、あー、と言ってバツが悪そうに頭を掻いた。
どうやら、そうらしい。
「まあ、いいですけど。ご飯にしません?ワインももってきちゃいました」
籠を持ち上げて示すと、うんと頷く。年下の彼はそういうところがたまに子供っぽいのだが、それを言うと彼は必ず怒るので、これは心の中にしまっておく。
テーブルの上に広げた食事は、なんだか作り手は同じ筈なのにいつもと違ってとても美味しそうに見えた。
知人のスウェーデン人や、エジプト人と比べれば全然そんなことはないが、口数が少ない方の彼なのだが、その分、感情が顔に表れて面白い。
「うめえ。・・・お前、こっちの料理の腕も上がったんじゃないのか?」
「そうですかね?それは嬉しい限りです。まあ、厳しい料理長のもとで日々特訓していますからね。」
ふっと笑うと、むっとしたのか、手に取っていたピッツァを皿の上に戻すと、今食べようとしていたというのに、口に入れる寸前だったレモンのスライスを奪って行った。
「厳しいって誰がだ?」
「おや?あそこに船が見えますね」
「話そらすんじゃねーよ、爺」
船はどんどん近づいて、港に停るようだ。どこからやってきたのか、定かではないが、きっと沢山の観光客を連れているに違いない。
「・・・・なあ、じじ・・・いじゃないな、菊、ありがとうな」
海を眺めるこの、小さいのに大きな東洋人を見ていたら、なんだか胸が熱くなった。
遠く時差8時間、12時間以上のかかる遠い遠い東の果てから、よくもまあこんなところに来てくれたと、本当に思うのだ。
別に、自分は金持ちでもなければ、とんでもない良い男でもない。
むしろ、商売もそれほどうまくないし、弟の方が商売もその他のなにかにつけても才能がある。人付き合いも弟の方が上手だし、弟が光ならこっちは闇だとさへ思えるのに、何故か自分を選んでくれたのだ。どうしてなのかは、怖くて訊けないが、もう自分を選んでくれたというだけでそれが真実なのだ。
目の前で目をまんまるにしている、普段美しい筈の顔を、おかしな顔にしている菊の手を攫って、小さくキスを送った。
「な・・・・ろ、ロヴィーノくん?何しました、今。ああああ、恥ずかしい、」
たったこれだけのことで赤面するところもとても愛しいとは思う。言葉にできないのが悲しいところだ。そういえば、弟はこんなときは素直に口に出して愛していると伝えている。
自分の、こんな照れ屋なところを直したい。
「あー、あのー、なんだ、その、愛してる。お前がこっちきてくれて嬉しい。」
菊は、真っ赤な顔を崩さず、項垂れてから、小さく小さく、波の音で聞こえなくなりそうなくらいの声で言った。
「そんなの、私もです。」
自分で言うのもなんだが、自分はとても、人付き合いが苦手だと思っている。
人付き合いが苦手、というと、すこし語弊があるかも知れない。
例えば街に出て店の人と話すのは平気だし、近所付き合いも積極にとまではいかないが、そこそこ。別に話すのが億劫とか、知らない人は怖いとか、そういう訳ではないのだが、何となく、深く立ち入られるのが嫌なのだ。
いや、では無いかもしれない。違和感がある、その程度だ。
なのに、この人は簡単にその垣根を通り越して跨ぐ。驚く程なんの違和感も無く。
例えば、隣に居て、話もせずに、ぼーっとしているのに、居心地が悪くなったことは一度も無かった。
ただ、ぽっかりと空いていた空洞が、ぴったりはまる何か暖かい物で満たされるのを感じるだけだ。
小さいなりをしているのに、どこかどーんとしていて、安心感がある。
今頃家で何をしているのか、やっぱり連れてこれば良かったかと考えながら、燦々と照りつける太陽を仰いだ。
誰も居ないこの屋敷の中、自分だけがこの白い壁が美しいキッチンに立って、包丁を握っている。彼は、何時間か前に畑に出て行った。
時計を見れば、もうそろそろ昼の時間だ。今日は天気がいいから、外で食べるのもいいかも知れない。
レモン畑の、青々と茂った葉の下、作り置いたテーブルセットで海を望みながら食事をするのが、とても好きだった。
ワインと、焼きたてのピッツァ、あとはなにかスープでも持って行こうか。
大きな、水筒に野菜の沢山はいったスープを入れて、カップとグラス、包丁やもろもろの準備物を籠に詰め込む。
「ああ、そうだ・・・」
これを忘れていは行けない。手に取った赤いテソロ。これも彼が、似合わず器用な手先で丁寧に作った愛情豊かな逸品だ。
裏口から出ると、この地方独特の、しかしどこか母国と似ているレモン畑がすぐ見える。
彼はきっと、だいぶと下の方まで行っているのだろう。
物音一つしない。
さわさわと風が吹いて、レモンの爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
柔らかな地面を下って行くと、海の見える中段ほどに、彼の姿が見えた。
「ロヴィーノさん!」
聞こえるように、すこし大きな声を出すと、気がついたのか、彼はゆっくりと振り返った。
日焼けした膚に、茶褐色の髪、この国ではどうか知らないが、母国ではそうとうな器量の持ち主だともてはやされるだろう美貌が、こちらをひたと見つめていた。
「ああ、なんだ、もうこんな時間か、ちくしょ、」
「なんです?そんなに作業が進まなかったんですか?」
時計などしない彼は、畑に出た時は、昼食に呼びにくるのを時報にしている。
問うと、あー、と言ってバツが悪そうに頭を掻いた。
どうやら、そうらしい。
「まあ、いいですけど。ご飯にしません?ワインももってきちゃいました」
籠を持ち上げて示すと、うんと頷く。年下の彼はそういうところがたまに子供っぽいのだが、それを言うと彼は必ず怒るので、これは心の中にしまっておく。
テーブルの上に広げた食事は、なんだか作り手は同じ筈なのにいつもと違ってとても美味しそうに見えた。
知人のスウェーデン人や、エジプト人と比べれば全然そんなことはないが、口数が少ない方の彼なのだが、その分、感情が顔に表れて面白い。
「うめえ。・・・お前、こっちの料理の腕も上がったんじゃないのか?」
「そうですかね?それは嬉しい限りです。まあ、厳しい料理長のもとで日々特訓していますからね。」
ふっと笑うと、むっとしたのか、手に取っていたピッツァを皿の上に戻すと、今食べようとしていたというのに、口に入れる寸前だったレモンのスライスを奪って行った。
「厳しいって誰がだ?」
「おや?あそこに船が見えますね」
「話そらすんじゃねーよ、爺」
船はどんどん近づいて、港に停るようだ。どこからやってきたのか、定かではないが、きっと沢山の観光客を連れているに違いない。
「・・・・なあ、じじ・・・いじゃないな、菊、ありがとうな」
海を眺めるこの、小さいのに大きな東洋人を見ていたら、なんだか胸が熱くなった。
遠く時差8時間、12時間以上のかかる遠い遠い東の果てから、よくもまあこんなところに来てくれたと、本当に思うのだ。
別に、自分は金持ちでもなければ、とんでもない良い男でもない。
むしろ、商売もそれほどうまくないし、弟の方が商売もその他のなにかにつけても才能がある。人付き合いも弟の方が上手だし、弟が光ならこっちは闇だとさへ思えるのに、何故か自分を選んでくれたのだ。どうしてなのかは、怖くて訊けないが、もう自分を選んでくれたというだけでそれが真実なのだ。
目の前で目をまんまるにしている、普段美しい筈の顔を、おかしな顔にしている菊の手を攫って、小さくキスを送った。
「な・・・・ろ、ロヴィーノくん?何しました、今。ああああ、恥ずかしい、」
たったこれだけのことで赤面するところもとても愛しいとは思う。言葉にできないのが悲しいところだ。そういえば、弟はこんなときは素直に口に出して愛していると伝えている。
自分の、こんな照れ屋なところを直したい。
「あー、あのー、なんだ、その、愛してる。お前がこっちきてくれて嬉しい。」
菊は、真っ赤な顔を崩さず、項垂れてから、小さく小さく、波の音で聞こえなくなりそうなくらいの声で言った。
「そんなの、私もです。」
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西條事情
店主:西條
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
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