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ひかりなでしこ

伊日。
日はアントーニョとつき合っていました。このたび別れたので・・・・
同タイトルの曲がイメージ
ひかりなでしこ













彼が、好きだと言って、私ははい、私もです、と言った。
恋いこがれていた彼の言葉は、とても胸を熱くした。なのに、手を繋いだその瞬間に、ああ、この人じゃあない、と気がついてしまった。
けれど、ずっとこの人が好きだと、思いを募らせていたのは事実で、手を振り払う事も、なにも出来なかった。好きで、好きでたまらないというのに、彼は違うのだ。
何が違うのか、わからない。けれど、彼じゃあない。
だから、頭の中で分かっていたのだと思う。
すぐに別れが来てしまうのだろう事が。
「アントーニョさん?どうなさったんですか?」
怖い顔をしている恋人は、今にも人を殺せそうなくらいだ。
彼は、しばらくなにも言わずにじっと、雨の降る中、ぬかるんだ砂利の上、動こうとしなかった。
昼間、子供らが作ったのだろう砂の城は、どろりとむざんに形を変えているし、遊具も雨でぬれて使えない。
そもそも、こんな夜中に子供はこんなところに居ないだろう。
突然呼び出されてここへ着いたとき、彼は傘もさしていなかった。
「アントーニョさん?」

つき合い始めて何年になるだろうか。けれど、最近はずっと、会っていない。会っていないといっても、顔を会わせてはいるのだが、彼の癖が災いして、すぐにお開きになってしまう。
彼は、大事な物はすべてポケットに仕舞おうとするような、欲張りな男だった。
恋人と会うと約束をしたというのに、友人からの誘いが重なっても、恋人との逢瀬を理由にそれを断ったりもしなかった。日に何人と会うのか、いつも、こちらがどんな思いで会いに行くとも知らずに、本当に、顔を見ただけで終わってしまうのだった。
「とまあ、こんな感じなんですよ」
目の前の友人2人とも、目をまんまるにして驚いているのが可笑しくて、ついつい笑ってしまったら、生真面目なルートビッヒさんが、咳払いをして赤面した。
「あら、すみません。だって、お二人とも本当に驚いているんですもの、可笑しくて」
「ヴェ〜でも、そんなの信じられないよ〜!俺だったら菊との約束が第一だもん。兄ちゃんがどこか行こうって言っても断っちゃう。」
カランカランと、アイスティーのストローをかき回して、フェリシアーノくんが首を傾げた。不満そうな顔も、可愛いのだ、彼は。
「うむ、俺もそう思う。たとえ兄さんが遊園地に行こうと言っても、俺は本田やフェリシアーノとの約束をしていたならそれを優先するな。まあ、兄さんが先に言って来ていたならまた違うが・・・」
「ヴェッ!そうなの?そうなんだ!俺はぜっったい、菊やルートとの約束が優先だな〜〜」
言いながら、フェリシアーノくんは不意に窓の外を見た。
つられて、同じように窓の外を見ると、見知った姿を見つけた。
「あっ!」
気まずそうな声を出したのは、やはりフェリシアーノくんで、もちろん、その理由を、自分も知っていた。
何故なら、視線の向こうのその人、アントーニョさんは、綺麗な女の子と手をつないで歩いていたからだ。
「き、菊ぅ〜」
「そんな、泣きそうな顔をしないでください。彼と私は、もう終わったんです。彼が誰と居ようが、私には関係のない事ですから」
きっぱりと言うと、彼らは少し安心したのか、それなら、とそのまま今日はルートヴィッヒさんの家に泊まりに行く事に成った。
喫茶店から、おしくらまんじゅうみたいに、三人の居るところだけ満員電車のような密着度で歩いていたら、なんだかとても幸せになった。
そうしたら、突然、フェリシアーノくんが、立ち止まった。
「どうした、フェリシアーノ」
さっきまで三人でわいわい言っていて、彼が一番はしゃいでいたというのに、彼はスイッチを切り替えたみたいにぱったりと笑顔を消している。
「フェリシアーノくん?・・・どうしたんです?」
頭を撫でようとしたのに、それは叶わなかった。
「あのね、俺、ずっと菊のこと、好きだったの。・・・・俺、イヤな奴だと自分でも思うけど、アントーニョ兄ちゃんと別れたって訊いたとき、すっごく嬉しかったんだ。だって、だってね、俺が菊のこと知ったときにはもう、つき合ってたんだもん。勝ち目・・・ないって思って、だから、友達ならずっと一緒にいれるかなって、でも、でもさ、」
握られた手が、熱い。
でも、この手だ、と本能が告げていた。あの日、アントーニョさんに握られた瞬間に、ああ、この人じゃないと告げた本能が、この手だ、と言っているのだ。
彼の少し赤くなった顔につられて、こちらはきっと、彼以上に真っ赤に違いない。
「はい。大丈夫ですよ、フェリシアーノくん。・・・・でも少し、待ってくださいませんか?もっと、2人の時間を積んで、友達以上、恋人未満をじっくり経験してから、ね?」
「やったぁ!ね、ね、じゃあさ、今日はルートの家に泊まるけど、明日、その後、俺んちに来てよ!」
彼の腕は見かけ以上にたくましく、いつもの友達のハグとは、少し違った。
彼の心臓が、早い。自分の心臓と同じくらいの早さだと感じる。
「ええ、そうしましょう。」
ふっと息を吸い込んだら、胸一杯に、甘い香りが満ちた。
ずっと、空洞だった心の一部が満たされる気がして、彼との日々も、甘い何かがあったろうかと考える。
きっとその時はあったのに違いないのに、思い出す事が出来ない。
けれど、それでいいということにしておこうと思い直した。
また、これから作れば良いのだ。
落ちた花火は、もうにどと帰らない。あとは消えるだけだ。
まだ火に近づいたばかりのこの花火は、燃えることも知らない。燃える盛りは消える事をしらない。しかし、きっと消えない花火もあるのだと、そう思って目を閉じた。

「んん、あーーー、俺もいるのだが、」
ルートヴィッヒさんの気まずい声を聞くまで、ずっとそうしていた。
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