だって、貴方が泣くってわかるから
露日。
だって、貴方が泣くってわかるから
「もしもし、ロシアさんですか、明日は申し訳ありませんけど、そちらに行けそうにないんです。・・・ええ、・・・ええ、本当にすみません。仕事が・・・・、え?仕事を増やしてくれたのはあなたでもあるんですけどね。はい、あ、ごめんなさい、では、また連絡しますから、」
無情なツーツーという音を立てて、電話の向こうの彼の暖かい声は、その後ろに聞こえる喧噪とともに途絶えた。
「そりゃあ、確かに、僕の上司も悪いと思うけど。なんで明日なの?」
明日は、前々から予定していた、彼が行きたいと行っていた場所に招待する日で、もう準備も整えたところだった。
持って行く物も準備したし、予約も取っている。
ああ、これから連絡しなくちゃ、と思っいながらも、なんだか期待していた分だけ気が重い。
深い深いため息をついて、ソファに座り込んだ。
今日は久しぶりに晴れて、雪に反射した光が痛い程に輝いている。
きっとこの調子なら明日は雪か雨に違いない。だって、自分がこんなに悲しい思いをしているのだから。
冷めた紅茶をくいっと飲んで、横に置いてあったヴォトカの瓶を拾い上げる。マグカップになみなみと注いでそれをジっと見たら、水面に映った自分の顔は、笑える位泣きそうな顔をしていた。
「日本くんのばか」
目の前が歪んで、ぼろぼろとみっともなく涙がこぼれる。
冬の間は、なんだかどうしても、ちょっとしたことで不安定になってしまうのだ。
こんなところで彼を罵ったってどうしようもないし、この身のことだから、仕事が入れば仕方が無いのかもしれないけれど、やはりこの極寒の大地に身を置く自分は、誰かとともに居なければ崩れ落ちてしまう。
「うう、日本くんのばか・・・・」
膝の上にのってきた飼い猫が、心配そうにこちらをみている。本当は、ここに来る彼と一緒に、たまも連れてきてもらう筈だったのだ。この子も、恋人に会えずに悲しいに違いない。
背を撫でれば、理解したのか悲しそうに泣いた。
あんなに綺麗に晴れていたのに、もう今は吹雪が空と世界を覆い隠してしまっている。
これではしばらくここから出る事は出来そうにない。
特に大事な会議が無かったから、問題は無いだろう。ただ、どんどん自分が悲しくなってくるだけだ。
ならば、そうだ。
今すぐ空港へ行って飛行機に飛び乗って、日本へ行ってしまおうではないか。
彼のところはここよりはずいぶん暖かいし、彼が仕事へ出ていても自分は家に居たら彼が帰ってきたときにすぐ会えるではないか。
そう思ったら居ても経っても居られず、今度はドアを壁に打ち付けて壊してしまわないようにそっと扉を閉めた。
空港の雑踏の中、チケットも予約せずに、カウンターに向かう。顔見知りの係員が飛んできた。
「これは、イヴァン様、ど、どうしました」
「うん、今から日本に行きたいんだ~。乗せてくれるかな?」
「えっ、その、チケット・・・」
「無いけど?乗せて?」
係員が顔面蒼白で、額に汗を浮かべているし、カウンターの女の子は苦笑いでぽかんとしている。
けれど、絶対に行くんだ、きりっとここは譲れないと意思を新たに、こるこる準備。
「ちょっと、あんたなにやってんですか、そこのシロクマ!」
係員の顔が蒼白を通り越して白くなって、醜く歪み、受付カウンターの女の子が顔を隠したのと同時に、後ろから耳に心地よい声が響いた。
「・・・?」
「すみません、ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫ですから」
左手の小指を猛然と引っ張りながら早足で歩いて行くから、痛いよ、と言ったのも気がついていないに違いない。あっという間に空港のそとで向き合っていた。
あんなに悲しかったし、腹がたったのに、もうこんなにも心が温かくなっている。
まるで魔術かなにかに思えるくらいだ。
「ねえ、どうして来れたの?来れないって言ってたのに」
ぎしぎしいう古いソファに座って、隣で、ちょうど脇の当たりに頭を乗せている格好の日本くんを見下ろしながら問いかける。
ぴっとりとくっついてくるその彼の膝の上には、うちの飼い猫と、そのお腹の下にふっくりと身を隠して顔だけ出しているたまの姿がある。
「別に、だって、うちの寂しがりやのシロクマがわんわん鳴くんですもの・・・爺は涙に弱いんです」
何で泣いたってわかるんだろう、とか、なに、シロクマって僕の事なの?とか、いろいろ言いたかったのに、嬉しくてもうなにも言葉が出なかった。
やわらかな頬に指を這わせて、顎を攫って上を向かせてすかさずその同じくやわらかい唇を奪った。
「もしもし、ロシアさんですか、明日は申し訳ありませんけど、そちらに行けそうにないんです。・・・ええ、・・・ええ、本当にすみません。仕事が・・・・、え?仕事を増やしてくれたのはあなたでもあるんですけどね。はい、あ、ごめんなさい、では、また連絡しますから、」
無情なツーツーという音を立てて、電話の向こうの彼の暖かい声は、その後ろに聞こえる喧噪とともに途絶えた。
「そりゃあ、確かに、僕の上司も悪いと思うけど。なんで明日なの?」
明日は、前々から予定していた、彼が行きたいと行っていた場所に招待する日で、もう準備も整えたところだった。
持って行く物も準備したし、予約も取っている。
ああ、これから連絡しなくちゃ、と思っいながらも、なんだか期待していた分だけ気が重い。
深い深いため息をついて、ソファに座り込んだ。
今日は久しぶりに晴れて、雪に反射した光が痛い程に輝いている。
きっとこの調子なら明日は雪か雨に違いない。だって、自分がこんなに悲しい思いをしているのだから。
冷めた紅茶をくいっと飲んで、横に置いてあったヴォトカの瓶を拾い上げる。マグカップになみなみと注いでそれをジっと見たら、水面に映った自分の顔は、笑える位泣きそうな顔をしていた。
「日本くんのばか」
目の前が歪んで、ぼろぼろとみっともなく涙がこぼれる。
冬の間は、なんだかどうしても、ちょっとしたことで不安定になってしまうのだ。
こんなところで彼を罵ったってどうしようもないし、この身のことだから、仕事が入れば仕方が無いのかもしれないけれど、やはりこの極寒の大地に身を置く自分は、誰かとともに居なければ崩れ落ちてしまう。
「うう、日本くんのばか・・・・」
膝の上にのってきた飼い猫が、心配そうにこちらをみている。本当は、ここに来る彼と一緒に、たまも連れてきてもらう筈だったのだ。この子も、恋人に会えずに悲しいに違いない。
背を撫でれば、理解したのか悲しそうに泣いた。
あんなに綺麗に晴れていたのに、もう今は吹雪が空と世界を覆い隠してしまっている。
これではしばらくここから出る事は出来そうにない。
特に大事な会議が無かったから、問題は無いだろう。ただ、どんどん自分が悲しくなってくるだけだ。
ならば、そうだ。
今すぐ空港へ行って飛行機に飛び乗って、日本へ行ってしまおうではないか。
彼のところはここよりはずいぶん暖かいし、彼が仕事へ出ていても自分は家に居たら彼が帰ってきたときにすぐ会えるではないか。
そう思ったら居ても経っても居られず、今度はドアを壁に打ち付けて壊してしまわないようにそっと扉を閉めた。
空港の雑踏の中、チケットも予約せずに、カウンターに向かう。顔見知りの係員が飛んできた。
「これは、イヴァン様、ど、どうしました」
「うん、今から日本に行きたいんだ~。乗せてくれるかな?」
「えっ、その、チケット・・・」
「無いけど?乗せて?」
係員が顔面蒼白で、額に汗を浮かべているし、カウンターの女の子は苦笑いでぽかんとしている。
けれど、絶対に行くんだ、きりっとここは譲れないと意思を新たに、こるこる準備。
「ちょっと、あんたなにやってんですか、そこのシロクマ!」
係員の顔が蒼白を通り越して白くなって、醜く歪み、受付カウンターの女の子が顔を隠したのと同時に、後ろから耳に心地よい声が響いた。
「・・・?」
「すみません、ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫ですから」
左手の小指を猛然と引っ張りながら早足で歩いて行くから、痛いよ、と言ったのも気がついていないに違いない。あっという間に空港のそとで向き合っていた。
あんなに悲しかったし、腹がたったのに、もうこんなにも心が温かくなっている。
まるで魔術かなにかに思えるくらいだ。
「ねえ、どうして来れたの?来れないって言ってたのに」
ぎしぎしいう古いソファに座って、隣で、ちょうど脇の当たりに頭を乗せている格好の日本くんを見下ろしながら問いかける。
ぴっとりとくっついてくるその彼の膝の上には、うちの飼い猫と、そのお腹の下にふっくりと身を隠して顔だけ出しているたまの姿がある。
「別に、だって、うちの寂しがりやのシロクマがわんわん鳴くんですもの・・・爺は涙に弱いんです」
何で泣いたってわかるんだろう、とか、なに、シロクマって僕の事なの?とか、いろいろ言いたかったのに、嬉しくてもうなにも言葉が出なかった。
やわらかな頬に指を這わせて、顎を攫って上を向かせてすかさずその同じくやわらかい唇を奪った。
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店名:三日月商會
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