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美しい生物

南伊日。
ラッドのふたりごとを聞いて。イメージ。引用?
とりあえず、読んだら彼らのその曲をぜひ聞いてくださいませ。
美しい生物








一番初めに会ったのは、教会だったと記憶している。
その日はミサのある日ではなかったのだが、珍しく、異常なくらいに早く目が覚めてしまって、何となく祈りたい気持ちになって行ったのだが、彼は教会の入り口で、十字を切ることもなく、ただ呆けたように正面の十字架を見上げていたのだった。
自慢では無いがその教会で洗礼を受けたというのは自分にとって誇りで、教会の所属であるというのがとても嬉しくもあった。
何故なら世界的に有名であったから。観光客もひっきりなしに訪れるから、日曜日のミサのある日は彼らは入ることが出来ず、この教会の所属のもの達が入っていくのを羨ましそうに見ているのを横目で見ているのも、優越感を感じる。
その日は平日だったが、早朝だったから人は殆ど居なかった。
一目でアジア人と分かる、黒い髪に象牙色の、さわり心地の良さそうな肌に、大人なのか子供なのか分からないミステリアスな背丈や顔の作り。しかし、この地球上にこんな人間がいるのか、むしろ今までだってこれからだってこれ以上の美しい生き物なんて生まれることはないだろうと思うくらいに、十字架を見つめるその生物は美しかった。
「チャオ、ベッラ。」
なんていつものように声をかけることもできず、失礼だと自覚しながらもしばらくまじまじと見つめてしまった。
そのうち、視線に気がついた向こうが、曖昧に微笑むまでそのままだった。
その曖昧な、控えめな笑みで、その人物が東の果て、極東にぽつりと浮かぶ国、日本の出身だと確信した。彼らは総じて愛想がいい。のに、無表情と言われる。弟の友人に本田菊という日本人がいて、弟はそいつを可愛い、好きだと姦しく、その関係で、よくその日本人の行動や日本という国について聞かされていたから今の曖昧な微笑みが愛想笑いだというのに気がついたのだ。
「よう、観光か?」
何気ない風を装い、問いかけると、流暢ではあるが訛りのあるイタリア語で、「ええ、そうなんです。友人の家に招待されたもので」とバカ丁寧に話した。しかし、その声の、思わぬ低さに、ようやく彼が男だと気がついた。
「……ふふ、驚かせてしまいましたか?私の友人も、あなたと同じで私を見て女性だと勘違いされたんですよ。」
言ってもいないのに、日本人というのは心を読めるのだろうか。
「読めませんよ。…あなたが解りやすいだけです。」
ただ、私たちは相手の僅かな表情の変化から、感情を汲み取る文化なので。とだけ言った。
「ふうん。…ところで、その友人と会うのは何時だ?」
「今日の夜です。彼ったら、家が散らかっているから夜まで待ってて~ごめんねぇ!…ですって。可愛いですね」
可愛いねはお前だよ、とは言えず、
「ああそうか、じゃあ、1日俺が案内してやるよ、」
と自然と誘うことができたのだった。
その後、その美しい生き物が本田菊という弟の友人だと分かったのだが、もうその時点ではすでにこの出会いに神に感謝するほど彼が愛しかった。

菊を攫ってしまったときは、死ぬ程弟に恨まれたし、実際殴られもしたし殺されそうになった。けど、未だ諦めていないというのが恐ろしいところなのだが、それでも少しは認めてくれている気がする。
菊はときどき、こちらには理解不明な事を言う。
彼の国で言う占星術や、血液型とやらで2人の相性を調べて決めつけたがる節があった。それによれば、相性はあまり良くないらしい。
自分の事が好きなのか嫌いなのか、よくわからなくなるが、たまに相性で言うなら弟との方がいいと言うのには心底理解できない。
それでしばしば喧嘩になる、というのか、こちらが一方的に拗ねるのだけど、それでも決して、ふらついた、行動を起こさないのが菊だった。

待ち合わせをした教会へ行くと、出会ったときみたいに、入り口から奥の十字架をじっと見つめる彼がいた。
「悪い、寝坊した」
言いながら近づき、手を取ると、にっこりと花を咲かせるように、笑った。
この出会いの奇跡を喜びたいが、彼は神も奇跡も信じない。
だからそれを言うことはないが、こっそりと、胸の奥で神に感謝をささげた。

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