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サン・ヴァレンタインとアクアチェタ

伊日。バレンタインネタ。
サン・ヴァレンタインとアクアチェタ















サン・ヴァレンタインの日、というのは良いものだなぁ、と、朝から花屋が忙しそうにしているのを見てしみじみ思う。
今、自分の家に滞在中の、極東の彼のところでは、その文化の為か、女性から男性に、告白をしたりするという日らしいが、こちらでは恋人の日であり女性から男性へというより女性に男性が花束を贈ったりする日で、その日の夜は若いカップルだけでなく老夫婦に至るまで、街のリストランテは幸せそうな男女で一杯になるのだ。
しかし残念ながら、今日は行きたくもない欧州会議がある。
先日、日本の誕生日にひどい目にあった兄に「俺は行かねぇ。お前も同じ目にあっちまえ、チギー!」とどれだけ恐ろしい体験をしたのか、涙声で訴えられたのだが、それを隣で一緒に電話から聞こえてくる声を聞いていた日本が、「申し訳ないことをしてしまいましたね…。フェリシアーノくん、お仕事、がんばってください。お弁当作りますから。」
と言ってきたので、断ることは出来なかった。
でも、夫婦さながら、アイロンをかけたパリッとしたシャツに、スラックスを履いていたら、そっと近づいてきた日本は何ともなしに深い赤色のネクタイを白く小さな手で器用に結んでくれたし、朝ご飯もホカホカで美味しい。出かけにはジャケットを着させてくれて、お弁当を持たせてくれた。
仕事なのに、鼻歌が出そうだ。
会議のあるドイツまでひとっ飛びすると、いつもより早く着いたのが珍しいらしく、ドイツも、一緒にいたオーストリアやハンガリーも、大仰に驚いてみせた。
「…どうしたんだ?まだ会議まで10分はあるが…」
驚きを通り越して心配してきたのはドイツで、熱を計ろうと手を額に当ててくる。
「ヴェ~、違うよ~!日本が早く行きなさいって言うから早い飛行機に乗ったんだ~」
日本、という言葉に、ドイツや、少し向こうの方で話していたスペイン、フランス、黒板に何やら絵を書いているイギリスがぴくりと反応した。
「…ああ、今、日本はお前のところに居るんだったな…。メールが届いていた。」
ドイツは、そう言えばそうだった、と思った。
「それで、今日はその香水なんですね」
「イタちゃん、やるわね!もっと色々聞かせてちょうだい!」
オーストリアが言う香水は、自国の世界最古が自慢の薬局、サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局の物で、以前日本をイメージして作らせた物で、お気に入りである。
「ヴェ、さすがオーストリアさん…!」
大興奮のハンガリーには曖昧に笑うだけにして、オーストリアに言うと、彼は「当たり前です、おバカさん」と返した。
会議の昼休みは、食事に行こうと誘ってくれたドイツと一緒に、休憩スペースでお弁当を広げた。
一緒についてきたフランスやスペイン、自宅警備を一時中断してやってきたプロイセンも驚く程の出来栄えのお弁当は、食べるのが勿体無いくらいだ。
「す、すごいやん、なにこれどうなっとるん?俺の持ってきた昼ご飯と全然ちゃうんやけど!」
スペインが食費を浮かそうと持ってきたのは、パンに適当に挟んだハムとレタス、そしてトマトだ。彼の家の時間では、この時間ではまだおやつの範囲なのだ。
「はあ~、すごいね日本…。俺のとこでも、ベントー流行ってるけど…やっぱ本場は違うなぁ…だってこれ、明らかにベントーの為に作ってるじゃん」
フランスは自国でも最近流行っているエコなベントーやキャラ弁を見てはいるが、こんなんじゃなかった。
ドイツは既に感動しすぎて言葉も出ない。
その弁当が、どんな物かというと、まず、ご飯がイタリア国旗になっている。小さな寿司、というのか、緑色は多分何か野菜が巻かれているのだろう。赤はチキンライスだ。おかずも彩り豊かで、アスパラをベーコンで巻いたものに、緑色のは多分日本のおひたしだろうそれと、プチトマト、茹でたエビとブロッコリーなど、おかずが少しずつ、種類が沢山入っているがバランスがいい。
「ヴェ!で、デザートまでついてる…!」
別の入れ物があったので開けて見れば、昨日試作すると言っていた抹茶ティラミスが入っていた。
もう、各々感嘆して、ほぅ…とため息までついている。
「えぇなぁ…。イタちゃんぇえなあ~…嫉妬してまうわぁ…俺もあれこれ考えやんと早よう攫っといたら良かった…今からでも遅ないか…」
「うん…俺もそう思う。あの時さっさと既成事実作りゃよかったよ…。」
不穏なことを呟き出した二人だが、目が本気である。
「だっだめだめ!日本は俺のなんだから!」

会議を終えて、家に帰る途中、いつもの花屋の前を通りかかった。
「チャオ!」
「ブォナセーラ!」
今日はサン・ヴァレンタインの日だからか、いつもより赤いバラが多い。花屋の主人も機嫌が良さそうだ。
「今日はどう?」
もう少ししたら、リストランテに行く前の男達がこぞってやってくるだろう。
「まあまあだね!これから忙しくなりそうだ。買ってくかい?奥さん、待ってるんだろ?」
奥さん、という言葉に吹き出しそうになったが、何だかそう見られるのも嬉しいから、否定しない。「ヴァベーネ!その赤いバラ…じゃなくて、こっちの黄色のバラにしようかなぁ…。」
赤いバラは、かの国を思い出すからあまり使いたくは無い。しかし、主人は腕組みしてにかっと笑って言った。
「そりゃ、赤いバラの方がいいと思うけどね?花言葉が何たってあなたを愛している、だろう?黄色じゃ一つ間違えたら別れましょう、だよ」
「うーん、でも、赤いバラってイギリスのイメージがあるから…」あまり使いたくない、と伝えたら、なにいってんだよ!としかられた。
「これはイタリア原産のバラだぜ?」
イタリアの自分が知らなかったが、そうらしい。なら、いいかなぁと思い、じゃあそれでと言おうとしたら、ふいに横に黒が過ぎった。あれっと思って振り返ると、ちょうど向こうもあれっと思ったのか、視線がかちあった。
「あら、フェリシアーノくん」
「菊!」
聞けば、買い物に出かけたのでついでに花を買っていこうとしたらしい。
「あ、フェリシアーノくん、この薔薇、知ってます?」
菊が指指すのは、先程主人がイタリア原産と言った薔薇だ。
「ヴェ?」
「これ、アクアチェタって言いまして、イタリア原産の薔薇なんです。私、薔薇と言えばイギリスやフランス…という方が多いですけど、イタリアの薔薇って凄く好きなんですよ。ちなみに、私のところにだって原産の薔薇があるんですよ。」
「イギリスより、俺の方が好き?」
答えなんて分かっているのにわざわざ聞くなんて、やな奴だ。だけど、ずっとこの花をみるたびに考えていたのだ。
「…当たり前です。…あなたがそんなことをわざわざきくなんて、心外ですね。」
ふへ、と笑って、人目もはばからずに抱き上げた。
「菊!愛してる!ずっと俺のものでいて…!」
サン・ヴァレンタインを味わう通りの男女や、店から外を眺めていた店員達が、挙って拍手をするなか、キスの雨を降らせた。
堪忍してください…と顔を赤くしながらも、彼は口づけで言葉を返した。

サン・ヴァレンタインはいいものだな。
目の前で、顔を綻ばせて薔薇を持つ彼をみて、しみじみ、また強く思った。
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