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輝く世界は君がいてこそ

伊日。
なにげに日常と非日常と繋がっていたりします。
輝く世界は君がいてこそ













「兄ちゃん、兄ちゃん、眠れないよ〜〜」
隣の部屋にいる兄のベッドに無理矢理潜り込み、半ば眠りかけていた彼を叩き起こしてそういうと、ため息をついた彼は、じゃあ日本にでも電話すりゃあいいじゃねえかと投げ捨てた。
「だって、日本は今仕事だもん・・・電話できないよ」
今日、仕事を午前中で切り上げて、こちらの時間で言うなら、この夜が明けて、まだ起きださないくらいの時間に彼は日本を発つのだ。
今はまだ未来を生きている彼の時間軸が憎らしく思える。
きっと、電話なんてしてくれない。携帯電話か、それかパソコンの画面の文字が、彼が自国を発った後にそれを知るのだ。
「いいじゃねーか、そしたらすぐこっちに来るんだろうが、何をごちゃごちゃと・・・言っとくが、羊は数えねえかんな!」
「ヴェェエええええ!ぎゃあ痛い、痛い!」
以前に羊を数えさせたのを根に持っているらしく、ぎりぎりと米神を締め付けられて悲鳴を上げた。
その後早々に眠ってしまった兄の横で、窓から差し込む月明かりをじっと睨んだ。
ようやく短い眠りを繰り返し始めた早朝、鳴り響いた電話に目をこする。
兄は出る気がないらしく、ほったらかしでぐうぐう寝息を立てているから、しぶしぶ凍える廊下に出て受話器を取ると、待ち焦がれた声が、後ろに喧噪をしょって聞こえてきた。
「もしもし?イタリアくんですか?」
「ヴェ、そうだよ!おはよう、日本!」
その声はヴェルヴェットのように耳に心地よい。ふふ、と彼は笑って、朝早くでしょう?ごめんなさい、とことわってから、「これから、飛行機に乗りますから。・・・あなたの声を聞いておこうと思いまして。起こしてしまいましたけど、・・・・悪いとは思ってませんから」と言った。



日本を発ったという知らせを聞いて、そわそわと落ち着かない。
仕事にも手が進まないし、嬉しくてそれどころじゃあない。
だから、ローマにある別宅から、彼が着くミラノまで、早々に列車に乗って迎えに行くことにした。
当初の約束では、彼がミラノにつく頃にミラノで出迎える。
それからローマに2人で戻って観光して、一緒にご飯を食べて、それからヴェネツィアの自宅へ行こうという約束だけれど、きっと彼は気にしないでくれるだろう。
あと13時間は彼の声すら聞くことが出来ないと思うと非常に悲しいが、約13時間の我慢で彼を抱きしめて、確かめることができるならうれしすぎる報酬だ。
「おい、どこ行くんだよ!」
兄のロマーノが仕事もそこそこに出て行こうとしているのを見咎めて、なまじりを上げて怒鳴る。
何故なら、今日1日はおとなしくデスクワークをする予定だったからだ。かわりばんこで仕事をするから、今日はかれは庭木の手入れをしている。
「ヴェッ!ちょっとそこまで~」
さっきまで使っていた日のあたる窓のそばの机は、書類やら何やらですごい有様だけれど、それを直している暇もない。というか、そんな気はもともとない。
「ちょ、おい!仕事はどうすんだよ!チギー!」
庭木の手入れをしていた手を止めて、梯子から飛び降りて追いかけてくる。
枝きりハサミを持ったまま追掛けてくるから、とても危ない。
「ヴェぇえええ!恋人に会いに行くんだよ、怒らないでぇええ」
大急ぎで荷物を引ったくるように抱えて、帰ったらどうなるだろうと思うけど、振り切って走った。
遠くの方から、「まだ13時間以上あんだろうが!」と怒声が響いたが、聞かないふりをした。
よくよく考えてみれば、兄も日本のことを好いているのだから、一緒に居るとまずいかも知れないし、おそらく誕生日になったら、あの家の中は彼の行方を追うイギリスやら、アメリカやら、ロシアやら、自分としてはまったく面白くない恋敵たちが祝いにやってきて、あわよくば日本のことを持って行こうとするのだから、こうして正解だ。兄には悪いけれど、しばらく連絡はできないようにしてしまおうと決めた。
ローマの石畳の上を早足であるく。お気に入りの店で作らせた革靴が地面を叩く音が響いた。
冬に珍しく、今日は驚くくらいに晴天で、いつもよりだいぶと暖かい。きっと、自分が嬉しいから天気も晴れたに違いない。
まだ空の上、今頃ロシアの上空にいるだろう恋人に思いを馳せた。
先月、嫌々ながらも別れた後、毎日電話をして、声を聞いて電話越しであるけれど愛を確かめているというのに、それでも声だけでは満たされないのだ。早く会いたい。
ミラノに行く列車のチケットを買って、ホテルの予約の電話を入れて、どんな風にかれの誕生日を祝おうか、それだけで頭はいっぱいになる。
美味しい物を食べるのは当たり前だし、楽しんでもらいたい。
けれど恐縮されてしまうようなことはしたくない。たとえ恋人でも何でも、礼儀を重んじるのは彼の特徴だからだ。
「おや、今日は機嫌がいいね!」
ちょうど焼きたてのパンを運んでいた馴染みのパン屋の主人が笑いかける。
「うん、俺のアモーレがね、日本から来てくれるんだぁ〜!」
「そりゃよかったね。そうだ、コレ持って行きな。今からまたミラノだろ?」
何度もそうしているから、主人も日本に住んでいる恋人は、ミラノに着くというのを知っている。
これからしばしの列車の旅に添える昼食を気を利かせて甘いパンを手渡してくれた。
「グラツィエ!」
「プレーゴ!」
貰ってそのまま手を振って、列車に向かって走った。
あんなにどんよりとして見えていた空に、薄雲って見えた町並みも、夏のまぶしい太陽が照らすみたいに、色鮮やかに見える。
きらきらとして見える自分の司る国に、嬉しくなって、甘いパンもいっそう甘く感じた。
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