忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

教習生日記2

伊日。
続きです。これで終わってます。一応^^
予鈴がなって、パラパラと指導員が教習車へやってくる。
車の横で、手持ち無沙汰な他の教習生の間を、本田と、ボヌフォワがなにやら楽しそうな様子でこちら側に歩いてくるのが見えた。
何となく目をそらしたのは、本田の事が気になるから…ではないと思いたい。
「ヴァルガスくん、ブレーキ踏んでください。」
はっとしてサイドミラーを見ると、後方に立つ本田が見えた。慌ててブレーキを踏む。
「はい、じゃあ、右。…左。OKです。エンジンかけてくださいね。」
途端に、らしくもなく心臓が早鐘を打ち始めた。
多分、顔が赤くなってしまっている筈だ。今が冬で良かった、ほっとする。暖房で頬が赤くなるのは常だからだ。
「よろしくおねがいします。…教習手帳を。もうすぐ教習も終わりですねぇ…。どうですか?路上はもう慣れました?」
原簿を確かめながら、本田は言う。
「ヴェ、まだちょっと…コースだと平気なんだけど~…」
「そうですよねぇ…。コースだと歩行者も軽車両もいませんからね。大丈夫です。今日ちゃんと教えますからね。」
本田は、こちらを向いてにっこりと笑った。白い手袋をした手が妙に艶やかだ。
「しおりと、地図を出してください。」
もう、技能も二回で見きわめだ。地図を差しながら、本田の手袋をした手がさらさらと赤色のボールペンで地図上に印をつけてゆく。
走行する上での注意点もメモしてくれながら、本田の説明を聞き逃すまいと必死になって言葉を追う。
「じゃあ、行きますか。確認して、良ければ発進してください。」
本田の合図で、慣れた手順で、しかし確認しつつ、ゆるゆると発進した。
助手席に座られると、何故かやりにくい教官と、何故か落ち着いて上手く出来てしまう教官がいるが、本田の場合は後者で、もしかすると安心させる何かを放っているのかも知れない。
不思議と落ち着いて、冷静な判断ができるし、間違いをしてしまっても、そのヴェルヴェットのような心地よい声に注意点を乗せられると、萎縮しない。
「いいですよ、ゆっくりでも。確認を怠らない事が第一ですからね。」
「うん、」
本田のその言葉に一息ついて、のろりと車を発進させた。
本田は基本静かで、運転しているあいだに何かを声を荒げて注意する訳でもなく、たとえミスをおかしても通り過ぎてから、「今のはもう少しスピードを落としたほうが曲がりやすいですよ」とか言うだけだし、だいぶ前から指示を出し、目安を教えてくれるので今までの欠点だらけの運転が見違えるようだった。
「ねぇ、本田さんって、結婚してるの?…指輪してるよね」
前を見て、ハンドルを握りながら言うと、本田はくすりと笑った。
「いいえ。あまりにも皆さん声をかけてくださるので…予防です。王さんが勧めてくださったんですけど、意外と噂ってまわるのが早いみたいでね、手袋をはめていない時に誰か一人が見たら、すぐに皆さんご存知になるんですよね。」
「ヴェ、そうなんだぁ…高校生達が、気にしてたから。」
と、いうか気にしていたのは自分でもあるのだけど、それは何故だか今は言うべきではないきがした。
卒業が近くなるにつれて、嬉しいのと、彼に会うことができなくなるという寂しさで、名残惜しく、試験に落ちたらまたここへくることができるのに…とまで考え出す始末で、ちょっと笑ってしまう。
意識しだすと余計に彼の仕草が気になってしまう。
結局、教習を終えても期待したような急接近は無く、すこしがっかりしたものの、卒業するまでに絶対に連絡先を聞いてやろう、そして、三年したら絶対にこの教習所に就職しよう。そう胸に決めたのだった。


「菊ちゃ〜ん、今日から指導員見習いで出勤の子ぉおるんやけどさ、菊ちゃんが指導したってなぁ!」
本田は朝から元気いっぱいの同僚、アントーニョ・フェルナンデス・カリエドに言われて、はて?と首を傾げた。確かに、繁忙期には人不足になって、0Bを嘱託で雇うという実態であるし、1日10時間労働はざらな上、残業も毎日2時間程度・・・繁忙期にはバスの運転までしなくてはならないから、こののんびりとした季節に見習いで採用したなら、次の繁忙期にはものになっているとは思うが、社長や校長からはそんなことは一切聞いていない。
「へ、そうなんですか・・・?何も聞いてないですけど・・」
本田が言うと、にっこりと笑った。
「あんなあ、ロヴィーノの弟なんやって!」
ロヴィーノと言うのは、彼、アントーニョが指導して、いまは立派な若手指導員のことだ。
入りたての頃は彼の言う事は一切聞く耳を持たず、これは大変な人間を雇ったものだなと思っていたのだが、周りの、特に本田の全面的なバックアップでここまできたのだ。
今は二輪の指導免許も取得して、普通車の教習にきた高校生や一般の女生徒たちのリピーター率に貢献している。ちなみに、本田は二輪もできるが、最近は若手にゆずって、普通車のみである。冬の二輪技能など寒さで凍死しそうだし、だいたい老体にはキツい。二輪はロヴィーノの他に、アントーニョ、強面だけれど教え方はぴか一のベールヴァルトがやっている。
「ああ、・・・」
ここにきて、また本田は首を傾げた。
自分は、彼にそっくりな誰かを知っていた気がするのだが。
茶色い髪に、くるん、としたくせ毛。しかし、何となく、おぼろげで、つかみ所が無い・・。
卒業して、式が終わったあと、連絡先を聞かれたのだった。
「おはようございます?本田さん?」
後ろからかかった声に、はっとする。
「あらっ」
「・・・・・菊って呼んでいい?」
見慣れたくるんとしたくせ毛に、すっと整った顔。以前、この自動車学校を卒業していったフェリシアーノ・ヴァルガスだった。彼の笑顔はまぶしいくらいで、最後の教習の日、自分のものよりも数段熱い唇をぎゅっと押し付けてきたあの彼の顔が思い出される。
ここ数年、なんどもその時の様子を思い出しては赤面して、何故そこで逃げてしまったのかと、年甲斐も無く肩をおとしたりもしたものだ。
「え、ええもちろん。これから貴方を立派な指導員にしてみせますから、どうぞよろしくお願いしますね」
本田はさっと立ち上がると、かれの暖かい手を取った。
「うん、よろしくね、菊!」


「ねえ、本田さんってさ、ヴァルガスさんとやたら仲良く無い?」
高校生の話題は、今日もこの2人の事である。
一人が、休憩室の種類の少ない上にちょっとお高いカップラーメンをすする音が響く。
「うん、私も思った。この前なんかさ、教習終わって、なっかなか車から出てこないなあと思ったら、一番最後に出てきてさ、2人とも!んで、すすす〜〜って寄ってふたりでなんかしゃべってたし。」
「本田さんあんまり笑わないじゃん?でもヴァルガスさんと一緒の時って大概すんごい笑ってるんだよね」
なんだろうね、と騒ぎながら、しかし結局は2人のどちらが自分はタイプなのかという話に行き着いた。
PR

西條事情

店主:西條

リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
メルフォは下にあります。

contact

何かありましたらこちらへどうぞ