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ヒメハジメは初詣を終えてから

伊日。
時期を逃した初詣ネタ。本家の記事をみて。
ヒメハジメは初詣を終えてから






外は暗く、しかし人々の気分に比例してなにやら明るく賑やかに感じる。日付が変わるのがこんなに楽しく嬉しい日はこの日以外にないだろう。除夜の鐘が鳴り響いて、年明けを告げる。
年末の酒宴ですでにほぼ全員が落ちている。
まだ正気を保っているのは自分だけかもしれない。突っ伏して寝ている面々もいれば、意図的に眠らせられている人もいる。
しんと静まって寝息しか聞こえてくることのない居間から、そろりと抜け出した。
凍えそうなくらいに寒い廊下を足音を忍ばせながら歩き、小声で愛犬の名前を呼ぶ。こんな時間なのに起きていたらしい、たまとフェリシアーノまで小さな足音を立てて近寄ってきた。
「おやまあ、二人とも。起きていたんですか?…あけましておめでとうございます、たま、フェリシアーノ。」
「にゃおん」
懐に忍ばせておいた煮干しを取り出して、鼻先に出すと、「あけましておめでとうございます!」と言わんばかりに鳴いた。
「ぽちくん、初詣に行きましょうかね?」
玄関先でリードを足元にセットして待っている彼に笑いかけると、
「俺も行く!」
と人の言葉で返事をしてくれた。
「…イタリアくん」
驚いて振り返ると、案の定、酔いのためかほんのり顔を赤くした彼がいた。
「ヴェ、だって日本が急にどこかに行こうとしたからびっくりしたんだよ~」
柱にもたれて寝ているように見えたのに、彼は起きていたらしい。
「それは…すみません」
「ヴェっ!謝らないで!日本と二人きりになれるの待ってただけだから。」
さらりとそんなことを言われては、赤面するより他ない。
彼は惚れ惚れするような笑顔で言った。
「だって、今日?昨日?一日、日本はみんなの世話で忙しそうだったし…。年明け一番くらいは独り占めしても神様は赦してくれると思うんだ~。」
こんなへらへらした言い方だというのに、子供っぽい言い方だと言うのに、蛇に睨まれた蛙みたいに、熱い言葉に、いけない、逃げなくては、かわさなくてはと思うのに瞳の真剣さや言葉の巧さに動くことができない。
「だめ。逃がさないよ…」
きらり、と剣呑に彼のいつもは優しい瞳が光った。
「っ…何言ってるんですか…逃げる気なんてもとからありません。ただ…」
「ただ?」
「もう、私は堕ちているんですから、口説きかからないで下さい…」
詰めていた息を大きく吐くと、玄関先だというのに白い。
手だけで促して、そっと外へ出た。うしろからついてくる彼は、まだ納得いかないと言った風情だが多分自分以外知らないだろう獲物を得た肉食獣の目をしていた。
煩悩の数だけ鐘をつき、鳴らしても、次から次へ湧き出るそれは減ることを知らない。
隣で鼻歌まで歌い出したイタリアくんをみて、ふっと笑った。
「イタリアくんって、本当に不思議な人ですよね…。こんな爺に惚れた上、飽きもせずに…」
皮肉るような口振りになってしまったが、これは率直な疑問。
しかし、彼はしてやったりと瞳を細めて、ぞっとするような笑みを浮かべた。
繋がれた手が、熱い。
「もっともっと、俺に夢中になって欲しいからだよ。それにねぇ、俺は、毎日、毎時間、日本に何回も恋してるから、それを伝えたいんだよ~!愛してる、って言葉じゃ伝えきれないくらいの気持ちをね?」
初詣に向かう恋人たちは、みんなこんな会話をしていたろうか。
多分、ああ、今年もこいつといられて良かったな、とか、今年はおせちをコンビニで注文してそれを食べたけど数の子の味付けは家で毎回作るやつのがおいしかった、とか、失敗したな、また来年からは真面目に年末にきちんと時間をとっておせち作ろう…とか、年賀状は来てるかなぁ、お年玉欲しいなぁ、福袋買おう、とかそんなもんな筈なのに、彼らよりも随分途方もない年月をともにしてきたくせに付き合いたてみたいな自分たち、というより自分に赤面してしまう。
彼の煩悩も、自分の煩悩も、寺の鐘を鳴らして吹き飛ばすべきだった。

初詣から帰って真っ先に向かったのが、真っ暗で埃っぽく黴臭い蔵だなんて、誰にも言えないし、新年早々に姫はじめを終えた自分に呆れてしまったが、それはそれで暖かく、胸がいっぱいになったのでよいこととした。
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