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雪の降る山の向こうから

露日
雪の降る山の向こうから












「あら、雪ですね・・・」
年が明けて、もうそろそろ通常の生活に戻ろうとしているところで、山のあたりが白くもやがかかったみたいになって雪が降っているのだと分かる。
そのうちきっと、吹雪と雪雲に覆われて、この景色から白くなって山が消えるだろう。
どうりで寒いと思った。そう一人呟いて、庭先の鉢植えたちを避難させる。
周りでぽちくんが楽しそうにきゃわんきゃわん鳴きながら走り回っているし、山からの風は冬の風の中でも氷のように冷たいものが吹き付ける。
「おお寒い」
首筋を撫でて行く風がさらに体を冷やすから、早くこれを終わらせて家に入って暖をとりたいものだ。
そう思って、はたと気がつく。
しまった、炬燵の電源も入れていないし、ストーブの灯油が切れていたのだった。
ということは、家の中に入ったところで、冷え込む日本家屋の中、暖をとれるのはまだ先ということだ。
頭の中で、アメリカ産の映画みたいに「オーマイゴッド!」と言って頭を抱えて膝をつくシーンが再生されて、はあ、とため息をついた。
「しかたありませんね、ポチくん、お散歩に行きましょうか。ついでに灯油も買わなければなりません」
駆け回っていた彼は、急に使命を帯びた顔に成って、わん!とたまには犬らしく吠えてくれた。

灯油缶と、買物籠、財布、そして一応リードを付けたポチくんを従えて、極寒の中首を縮めて歩く。
マフラーをしていてもどこに隙間があるのか、やっぱり寒いし、鼻の頭は寒い、頬も冷たい、毛糸の手袋なんてしていても意味が無いのだが、革でも寒いものは寒い。
灯油缶に灯油を入れてもらっている間に、スーパーの中で買物を済ませる算段で、さっさと灯油缶をおじさんに手渡し、カゴを持って店内に入る。夏場でも店内の中、魚と肉売り場は寒すぎるくらいであるから、冬ならもっと寒い。
なるべくそこを通らないようにして、野菜コーナーで品定めをしていると、見知った顔を見かけて目を見開いた。
天井まで届くんじゃなかろうか、というほどの長身に、長いマフラー。薄い色の髪。
「こんにちは、ロシアさん」
声をかけると、思いっきり驚いたように、一瞬飛び上がって、それからゆっくりとこちらを向いた彼は、やはり思った通り、彼だった。
「あ、日本くん・・・久しぶりだね、」
「はい。あなたの誕生日ぶりです。・・・・・その節はどうも」
年末、彼の誕生日を祝いに彼の家に寄った。案の定、彼の姉や妹が祝いの席の準備をしているところだったので、申し訳なくて贈り物だけ置いて、さっさと帰ってしまったのだが、年末年始の慌ただしさのなか、これはかなり失礼なことだったのかも、と少しだけ後悔したりもした。しかし、年始の挨拶などですっかり失念してしまっていた。
「あのね、プレゼント、ありがとう。す〜ごく嬉しかった。」
そういえば、彼がしているマフラーには見覚えがあった。
「とんでもない。ところで、どうしてここに?」
姿を見かけた時からの疑問をぶつけると、彼は本当に不可解ながらも、頬を染めた。
「・・・・・・なんですか」
貴方みたいな人が頬を染めるとか、やめてくれませんかね、なんてことは口には出さない。出したら負けというのは2人がいつの間にかこういう関係になってから痛いほど分かっている。
「あのねえ・・・・・お礼をしようと思って。僕はロシア料理しか作れないけど、お味噌汁の作り方を勉強してきたんだ。君の好きなカニも沢山持ってきたから、それを使って作ってあげようかなあって。でもね、材料がね・・・」
「はあ、それなら、これでどうです?この大根と、ほうれん草で・・あと家にみそがありますから、一緒に煮ましょうかね。」
「うん、そうする。僕が作るからね」
「そうですか、お願いしますね」
まるで親子の会話のようだなと思って、なんだか笑えて手を口元にやろうとしたら、不意に彼がその手を取ってぎゅっと握った。
「日本くん、誕生日祝ってくれてありがとう。」
その笑顔がこの上なく可愛くて、彼にそのままそれを伝える事は出来ないのだけれど、心が温かくなった。
山の方は、もう雪は止んでいるだろう。
山の向こうからきた冬将軍と、雪国が、こんなにほかほか頬を染めているのだから。
買物籠に入れた食材と、おじさんに頼んでおいた灯油と、ポチくんを回収して、さっきは一人で寒い寒いと言いながらやってきた道を、頂が白く色づいた山を見ながら、笑いながら歩いた。
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