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年の瀬の来訪者

初、仏日。
年の瀬の来訪者











年の瀬で、街はせわしない。
去年は彼の国に滞在していたのだけれど、こんなに忙しなくなかった気がする。(そのかわり、極寒だった)
クリスマスから年明けまでゆったりとした時間が流れ、だれも彼もが休暇でのんびりする、ということをきっちりと努めていたのだ。
この国は、年末は忙しい。キリストの誕生を祝う訳ではない人たちのプレゼント交換の日であるクリスマスから、こんどは年越しのための煤払い、鏡餅をかって床の間に飾って、注連縄を玄関に飾って、気合いの入ったところでは門松まで立てる。
最近は元旦から営業している店も多くなったから、さして作る人も少なくなったとはいえ、おせちも作らなければ成らない。元旦から店がやっているから、元旦の朝、しのげる位作ればいいし、頼んでおいて、少し量の足しにおせちの人気メニューを作るだけ、というところもありそうだ。
昔はどこもかしこも3日、4日まで営業していなかったから、必然的に保存のきくおせちを毎日少しずつ食べたものだが、他がやってないならうちが営業したらうち売上げとれるじゃん!とかけったいな事を思いついた奴らが居た所為で、いつの間にか正月の無い人が増えた。
ふう、とため息をついたら、当然正月の無い人間の一人である自分をなぐさめるようにして白いもやがあがった。
正月くらい休みたい。
と、いうか、年末に休みが無いと大掃除もできないし、おせちも作れないではないか。正月、朝から仕事があるのだから別におせちとかいらないじゃん、という馬鹿者は消えてしまえ。
正月も年末も休みがとれないせいで、なんだかイライラが募る。
冬の祭典も、今回ばかりは欠席だ。畜生。
「あ〜あ」
こんなところ、誰かに見られたら、「あんた誰?」状態だ。今、きっと自分は凶悪な顔をしているに違いない。誰にも会いたくない。
「はは、ちっくしょう・・・」
鼻がツンとして、なんだかこんな惨めな自分に涙が出てきそうだ。
「菊ちゃん、お帰り」
玄関先に、誰かが立っていて、暖かい声が出迎えてくれた。
こんな日に、というか、休みがないので誰にも会う約束はしていないし、せっかく、こちらへ来てくれると言ってくれた彼にも、丁重に辞退したというのに、目の前に立っているのはその人だ。
「・・・フランシスさん・・」
今さっきまで凶悪な気分で、ひと一人殺せそうな気分だったのに、一気にそれは沈下して、代わりに何故か目頭が非常に熱くなってきた。
フランシスさんは、にっこりといつもの男前な顔で笑うと、白い息を吐きながら、ウインクをして、きっと冷えきらないようにしていたのだろう革の手袋を外してまだぬくぬくとしている手で頬を撫でた。
「何なに?そんなに寂しかったの?」
「うぐ〜〜!」泣くまい、と思っても、優しい声が、包容力のある笑顔が、心臓を振るわせた。みっともなくぼろぼろと泣いて、きっと愛想を尽かされてしまう、そう思ったのだけれど、以外にも彼はふふっと嬉しそうに笑って、ぎゅっと抱きしめてくる。
「はは、菊ちゃん、ひどい顔だねえ、・・・・でも、そんなの見せるのは俺だけにしてよね」

「え、そうなんですか?」
落ち着いて、お茶の用意をして炬燵に2人で詰めていると(フランシスさんは、狭いというのに炬燵の一辺に2人で入るのが好きだ)、彼はどうしてここにいるんですか?という問いににっこり笑いながら答えたのだ。
「あのねえ、菊ちゃんの上司がさ、今年は休みをやれなかったから、年末年始、家の事をやってやってくれないかって。・・・年末年始は休めないけど、そのかわり、その後のフランス行きチケットくれたから!俺の家においで?」
とんでもないサプライズを用意してくれていたようだ。
密着した背中はとても暖かい。聞こえてくる心音も、至極落ち着く。
「・・・まったく。貴方も上司も、・・・甘やかすんですから」
きっと、上司が休みをやれないとぼやいたから、フランシスさんから申し出てくれたのだろう。ついでに、報酬もかねて好条件をたたき出すのが彼らしい。
自分はとても甘やかされている。
「いいじゃない?菊ちゃんが喜んでくれたら俺も幸せだし。・・・明日からお兄さん本気出してフランス風おせち作っちゃうから!」
「なんと!それは楽しみです!」
2人してへへへっと笑った。
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