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膚の色、

伊日(+独)
凍える空の続き。
膚の色、












どれだけそうしていたか分からない。
暖かい、彼の温もりに、眠気が襲っていつの間にか意識はこの夜空のような闇に覆われて、沈んでいった。
何日も眠れない日々を送っていた自分にとって、これほど安堵したのは久しぶりで、深く、より深くと落ちて行った。

「ルートぉ!俺だよ〜!」
閑静な住宅街。大きな庭付きの白い家の前、呼び鈴を鳴らして声をかける。
二階の彼の部屋のカーテンから、動く気配が見て取れて、ルートヴィッヒがすぐにくるというのが分かった。
軽々と抱き上げる事ができた菊の体は、いつもハグをしているときよりもっとずっと密着している所為で、彼の体が異常な程にやせているのが感触から伝わってくる。
「遅かったな。」
扉があいて、この家に住んでるとはとうてい分かりそうも無いような厳つい(これは褒め言葉だ)男、ルートヴィッヒが顔を出す。
腕の中で眠っている菊を見るなり、顔をしかめた。
「・・・・何があったんだ?」
「ヴェ、何にもないよ〜。俺が菊を傷つける訳ないじゃん。でも、これはそうとう手こずるかも知れないよ〜。」
「大丈夫だ。」
彼が、この小さな体の心の中に閉じ込めている膨大な、押し込めてきた感情を取り払って、誰かに頼る事は恥じる事でないと、誰も彼もが蔑む目を持っている訳ではないと知ってもらうのには、時間を要するだろう。しかし、自分たちになら、彼はきっとすぐに心を開くと、何となくではあるが、ルートヴィッヒは思った。
家の中は温かな暖炉に火がともって部屋を明るくしているし、大きなソファは三人で座ってもまだ余裕があるくらいだ。そっと、菊をソファの上に寝かすと、さっとブランケットをかける。
暖炉の火に照らせれて赤くなる菊の顔は、幾分か血色がよく見えた。黒々として艶やかな髪も、赤い火の色を映し出していてとても綺麗で、思わず見とれてしまう。
きゅっと、柳眉が寄って、眉間に皺を作った。

「ん・・・?」
深い夜のふちで、なにかの気配に意識が浮上して、ゆっくりと眸を開けると、目の前に見知った男の大きな美しい眸があった。
「フェリシアーノ・・・くん?」
「ヴェ!おはよう、菊、平気?」
眠っていたのだと知り、起き上がろうとするのを制して、彼はにっこりと笑って、この黒く面白みの無い髪に指を入れた。
思わず、失礼ながらもびくりと肩まで揺らしてしまい、また恥ずかしくなる。
何故ならどうして自分がこうなってしまったのか、彼は知っているのだから。先日のあの場面も、もしかするとそれより前に起こった事件も、噂か何かで知っていたかもしれない。
「す、すみません、なんだか・・・こんなことになってしまって。すぐに帰りますから。」
こんなところに長時間いたら、自分は劣等感でなんとかなってしまいそうだ。誰も居ない、しんとしたあの部屋で、じっと蹲っているのが自分にはふさわしいのだ。
「その必要は無い。今日は泊まっていけるように準備もしてある。」
しかし、フェリシアーノ君の後ろから、彼よりも低い声、落ち着いた声がかかって、見上げると、今度はルートヴィッヒさんが帰さない、と言わんばかりに怖い顔をしていた。(これは心配している顔、そして意見を変えるつもりのない顔だと知っている)
この人たちは、一体どこまで知っていて、そしてどうしたいんだろうと思うと、恐れに背筋がぞっとする。
「あ、あの・・・」
ぎゅっとにぎったブランケットは、とても柔らかかった。
「・・・・・あなたたちは・・一体どうして私にそこまで構うんですか・・・?そりゃあ、クラスも同じですし、仲良くして頂いていますけど、所詮アジア人で、見た目も貴方たちみたいにきらびやかでなく汚らしい上、へらへら笑って気持ち悪い顔をしていますし、皆さんに疎まれている私なんか・・・何の魅力もありません。貴方たちに構っていただくような人間ではないんです。」
自分で言いながら、深く傷ついて行く。けれど、これは事実だ。
なんども自分で同じ場所を辿ってきた考えを吐露する。恥も何も、きっと後から考えたら、最悪な気分になるのは間違いないだろうけど、溢れ出す涙が止められないのと同じで、止める事ができない。
「貴方たちにはきっと分からないでしょうけど、生きているのが辛いんですよ・・・」
その言葉で締めくくって、2人は何も言わず、沈黙が落ちる。
暖炉で木の爆ぜる音が響いた。
「教えてくれてありがと、菊。でも・・・そんなことだったの?じゃあ、簡単だね。菊は、自分の事が嫌いなんじゃないんだ、自身がないんだよね。では、俺にいい案があります!」
びしっと敬礼をとったフェリシアーノくんに、ルートヴィッヒさんが「手が逆だ」と小さく突っ込んだ。
「いい案・・・」
そういう問題ではないと思う。それに答えになっていない。
何も言わず、手を引かれるままに、バスルームに向かい、後ろ手に扉を閉められた。
そして、突然服を脱ぎだした彼に、ルートヴィッヒさんとともにぎょっとする。しかし、すぐに彼は何かを理解したのか、はあ、と大きなため息をついて彼の脱いだ服を拾い始めた。
「ほらぁ、菊、早く!菊も脱いで!」
何を言っているのか、脳みそが付いて行かず、とっさに左となりの彼を見ると、きゅっと肩をすくめてみせた。
「・・・恥ずかしいのは分かる。だが、フェリシアーノなりの回答だ。つき合ってやってくれ・・・日本には、温泉、があるだろう?そんなものだと思えばいい。」
そろり、と上着に手をかける。ためらいながら、一枚、一枚服を脱ぎ捨てて行く。
しかし、最後の一枚、シャツには手をかけることはできなかった。
一糸纏わない、潔いフェリシアーノくんはすでにもう風呂場に足を踏み入れている。
しかし、いつまでたっても脱ぐ事ができない自分を見て、かれはふっと笑った。
その笑顔は、今まで見た事が無いくらい、誰にもされたことが無い位、自分にも分かるくらいに、愛が詰まっていた。
傘の下、夜空の下と同じように、安心させるように、彼はぎゅっとこの身を抱いた。
「ねえ、どこが違う?肌の色が違う。髪の色も違う。大きさも違う。でもそれって当たり前だよね・・・。菊は自分のこと、汚いとか、そんな風に言うけど、俺は、俺のこんな白々しい膚より、バター色で綺麗だって思うよ。黒い髪も、つやつやしてて、宝石みたいだし、眸も夜空みたいで吸い込まれそうって思うよ?無理して笑う菊を見てるとつらいけど、能面じゃない。ちゃんと、菊の顔には感情が表れてるんだよ。人と違うことは怖いことじゃないし、いろんな価値観があるから、菊のことをやな風に言う人もいるかもしれないけど、確かに俺たちみたいな人間もいるんだから、そっちを信じるより、こっちを信じた方がずっと楽しいと思わない?」
体を離して均整のとれた体をひとつひとつ示しながら、フェリシアーノくんは言う。
比べて、貧相この上ないこの体を思った。
確かに彼の言う通り、自分を評価してくれる人間を頼りに生きて行くのなら、それが楽に違いなかった。
涙がこぼれてこぼれて止める事が出来ずに下を向くと、彼の白い足と、自分の小さく、そして彼が言うにはバター色の膚をした足が見えた。

その日、結局羞恥心を最大限に活用して、三人で風呂に入り、そのままルートヴィッヒさんの家に泊まり、翌日は三人で登校した。
アルフレッドさんやアーサーさん、その他の視線を一身に浴びて、また震え上がりそうになったのだが、それを知ってか、フェリシアーノくんはぎゅっと手を握ってくれた。
その手はとても暖かかった。
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