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君に寂しいなんて思わせたくないから

愛はなにものにも勝る。のイタリア視点の序章?
伊日
その日、日本から電話があった。
こんど日本の家で開催される会議のことで、事務的な連絡と、その他の他愛も無い話。ポチが今、庭を走り回って雀と戯れている、とか、たまは相変わらず岩の様に動かない、とか今日はなにを食べて、どんな予定があって、昨日はどうしていた、とか本当に、他愛も無い話。
いつの間にか1時間近く話していて、いつもと同じように、名残惜しく思いながら、受話器を置いた。
「では、また。」
という日本の声は、少し寂しそうで、いつも最後に胸を締め付けられる。
こんなに遠くなければ、すぐに会いに行けるのに。
もしかしたら、滞在した後、空港へ送ってくれる帰り道、彼はその小さな背を振るわせながら、泣いたりしているのだろうか。
そう思ったら、いてもたっても居られなくなって、部下の電話番号を引き出して、ダイヤルを回していた。
日本まで、12時間はかかる、自分が帰って行くとき、自国までも同じ位。
空港に着いたら一番に連絡するから、それまで、日本が寂しくないように。そして、次に会いにいけるまで、なにか残る物で会いを示したい。
「ヴェ、じゃあ、何だろう・・・?う~ん・・・」
首をひねりながら、かけかけた電話を置いて、部屋の中を見回す。
アトリエにしているこの部屋は、色とりどりの絵の具で汚れているけれど、もともとの壁が白いので、「まるで家に絵を描いたみたいで素敵ですね、」だそうだ。
その中に、以前、日本が滞在しているときに描いていた、この家の外から見た様子の油絵を見つけた。
「・・・うん、いいかも、いいかも!!わっはーー!いいこと思いついちゃったぁ!」
急にその絵を見たら、ひらめいた。
家の中を、自分の名残のするもので溢れさせたらいいんじゃないか、と。
洗面所に駆けて、そこにある石けんを見る。
「そう、そうだよね!これだよ・・・!」
世界最古の薬局と言われる修道院で手作りされているこの石けんは、香りもいいし、確かにイタリア滞在中、日本もお気に入りだった。
自分が使っているのもこの薬局のものですべてそろえている。
こうなったら、日本に居ながらにしてここに来た時とおなじ、とまではいかないかもしれないけれど、それを思わせるものを全てそろえて、帰るときにセットしておこう。
きっと、自分が帰った後、しょんぼりしながら家に帰って、びっくりするはずだ。
少しづつ、宝探しみたいに見つけてくれたらきっと、12時間あとでも寂しくならないはずだから。
今度こそ、受話器を手に取った。
「もしもし?俺だよ〜サンティリアーノ!あのね、頼みたいことがあるんだ!」

さて、準備は万端である。
仕事で日本への出張が決まっている面々に、少しずつ荷物を持たせた。
もちろん、自分でも持ってきているけれど、入りきらなかったのだ。
少し、時間差が出来てしまうけれど、それならぎりぎりまで帰らないでいたらいい。むろん、あそこにいたら、帰りたくなくなってしまうのだけれど。
長きに及んだ世界会議も終了して、早々に日本の待つ家へとタクシーを走らせた。
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