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花片幽

伊日。ww2
花冠モチーフです。
花片幽







ゆっくりとした動きで、艦隊は海を滑り、焼き尽くされた大地から去ってゆく。
崩れ落ち、殺伐とした荒廃の大地に、風で白く輝く砂が舞った。
ただ、その去りゆくものを立ち尽くすしかできない自分が不甲斐なく、失ったものの大きさにやるせなく、自分に対して怒りを覚えた。かたく瞑った瞳を開ければ、もう消えかかるほど小さくなった艦隊の姿。
崩れるように膝から力が抜けて、動くこともできず、砂に埋もれる。舞う砂に、このままこの醜悪で、憎むべき自分を隠してしまって欲しいと願った。
徐々に遠くなる記憶に、ゆっくりと目を伏せた。耳には、風の音がしっかりとこびりついていた。

戦争とは必ずしも互いにそれが好きで起こるのではないと、思う。この、どの方向へ向かうことも出来ぬほどに八方がふさがってしまった状態では、力ずくでしかやりようがなかったのだ。死を、覚悟していた。
この、国という自分が消え失せようとも、国民を、自らの血をもってして、これから生まれるであろう新しい国民のために、礎を築かねばならない。それを築けたなら、無くなっても構わない。
繋いだ同盟も、築き上げた友人関係すら、どうとなっても構わないほどに、困窮していた。
「どうして、あんな奴らと手を組んだんだい?」
そんなことを、この状況の原因となった男はさらりと言ってのけたし、
「僕と一緒になれば助けてあげられるよ?」
と、狂気を孕んだ瞳の愛に飢える男は言った。
誰も、助けてなどくれないくせに、口出しだけは達者にこなしてくれて、鼻で笑ってしまった。椅子を引き倒し、「もう、結構!」と会場の隅までわかるように言うと、呆然とした間抜け面で、誰1人としてなにも口を開けることなく、私を見送ったのだった。
戦局は、初めこそよかったものの、徐々に力を失い初め、一度崩れてしまえばあちこちがボロボロと崩れ始めた。
次第に焦燥感を露わにし始める軍と、降伏するべきだという一部の政治家。分離した意見が、もう一人の自分を生んだ。
暗く、軍国主義そのもののもう一人の自分は、真っ黒い軍服を身にまとって、自分に成り代わった。
「このままでは、守るものすら失ってしまいます!」
「守るべきはわが国の矜持であるというのが、分からないのか。」
「違います。矜持や名前だけではない。そこに国民がいてこそだと何故分からない?」
「国があれば自ずと民は増える。それがなぜわからない?我々は勝つことができる。あの野蛮人たちを八つ裂きにできるのだ。」
一向に平行線を辿る論議。
そのうちに、どちらがどちらで、自分が二人、一人、わからなくなる。気がつけば、自分は一人で、浸食されてなにも考えることが出来なくなった。思考が鈍る。ただ、自分は目の前の戦争をこなすのだ。

思い返したのは、初めてあった時の、あの、幸せな時間。
脳裏をかすめるのは、早々に寝返ってしまったイタリアくんの笑顔と、降伏したドイツさんの顔。
あの二人は元気に、やっているのか。
それすら情報を手繰ることも出来ず、暗闇の中を手探りで進んで行くようなこの状況ではあるが、たとえこちらに情報が届かずとも、あちらには届いているのだろう。
もう、滅びの道を歩み始めた自分にはもうきびすを返して戻ることもできない。あの、穏やかで温かだった日々には戻れない。そして、私もその時の自分には戻ることはできなかった。
あの日、手を取り合った。握った手の温かさとか、彼らの優しさだとか、泣きたいくらいに恋しいのに、どう頑張ってもまた3人になることなど出来ないのだ。
彼らは、二人で歩む。自分は、その隣にはいることが出来ない。きっと、この戦争は終わる、自分の滅びという終止符によって。
目を、閉じた。
あたりが明るくなって、目も開けていられないくらいの閃光に包まれる。自分の膚が焼ける匂いが鼻をついた。
(死ぬなら、私だけでよかったのに)
そう思いながら、意識を離した。

視界を覆う砂が、暖かい手によってどけられる。
体に重くのしかかっていた積もったすなも、埋まっていた体も、誰かが撫でて、砂を払う。
視界を失ったこの目では、それが誰だか判別することができない。
ただ、その手が温かく、そして、時折ぽつり、ぽつりと頬や瞼に雨が落ちるのだ。
声も出ず。かすれた空気の音が悲しく空に響いた。
びくり、とおそらく抱きかかえられていたのだろう体が揺れた。
甘い、香りが鼻をくすぐる。
この故障した鼓膜はその誰かの声を聞かせてくれないが、ただ残った嗅覚は、その甘い匂いを知っていた。
重く動かない手をのろのろとあげれば、その誰かの手が、それを捕まえて、ぬれた何かに触れた。
泣いているのか、そう思った。
自分の知る限り、彼はよく泣くのだ。また、きっとこの涙は自分のためだと分かった。
泣かないでと言いたいのに、それはかなわず、唯一、彼の手を強く握り返すしか出来ない。
やがて戻る聴覚は、一番始めに「愛してる、」を捉えた。




______________
タイトルは、「はなびらかす」と読みます。
西條八十の詩、「梯子」の一節より。
「待たるるは 月にそむきて 木屑の花片幽か 埋もれし女のあし音」
これと、月子さんの「花冠」を絡めました^^
ちなみに、西條八十で有名なのは、ご存知、「蝶」かと思います。
「やがて地獄に下るとき、そこに待つ父母や、友人に私は何をもつて行かう。
たぶん私は懐から 蒼白め、破れた 蝶の死骸をとり出すだらう。さうして渡しながら言ふだらう。 一生を 子供のやうに、さみしく これを追つていました、と」
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