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ロシア流、幸せの表し方

露日。
某SNSにて、ダーリンがロシアさんな方のエピソードを聞いて。
ロシア流、幸せの表し方






「いいですか?往来で抱きつくことや、口づけをするなんてもっての他ですからね!そんなことをしようものなら、すぐさま家に帰ってもらいますからね!」
そういうと、おとなしいことに、ロシアさんはうんうん、と頷いて笑った。

夏場、あまりの暑さに、こない方がいいと言ったのに「僕に知られたくないことでもあるの?」とか妙なことを言ってむりやりやってきたロシアさんは、そのまま熱中症で倒れて、少し回復した2日後には家に強制的に帰してやった。
そのあと、手紙で言うことには(彼は電話よりも手紙の方が好きらしく、ちっとも電話をよこさない代わりに、時間をかけてぽつん、ぽつん、と手紙をよこす。多いときでは、きっと一日一通出したんだろう彼の手紙が、彼の国ののんびりした郵便では一通づつ届かず、まとめて7通もやってきたことがある。)全然平気だったのにとのことだが、あれは確実に平気なんかじゃなかった。
あの茹だる暑さの中、ニットのマフラーを巻いていれば、首は汗みどろだし、体温もあがってしまう筈だ。前に彼がやってきた時にこさえてやった手ぬぐいで出来たマフラーはその時持って帰らせてしまったので、手元に無ければ彼の暑さをしのがせることはできない。
こちらだって、口が裂けても言いたくはないけれど、会うのを楽しみにしていたのだ。彼が来るのに間に合うように、向日葵の花を苗で買ってきて、なんだか乙女ちっくであり益荒男の自分には似合わないことだと思いながらも縁側のいい位置に植えたのだって、その証だ。
彼を帰してしまってすこしだけ後悔だってしたのだから。
もともと、冬がやってくる前に暑い南へ下って、思う様夏を満喫するんだと言って、ひと月は過ごす予定だったのだ。必要になるだろうと思って買いそろえておいた、日本ではあまり手に入れることができないロシアのお菓子などを、あらかじめ買って用意したし、その他にも、ロシア産の紅茶、食材、などなど。彼のサイズに会わせて浴衣も拵えたのに、(おかげで夏コミの原稿が一向に進まなかった)すべてぱあだ。
しかし、ようやくこの、まだ時折28℃ほどになるとはいえ、涼しくなった頃に、彼はまたやってきた。
こんどは二の鉄は踏むまいと、彼がやってきてから買物に行って、必要なものを買ってやることにした。
近くのスーパーでは安いがロシアのものは扱っていないから、着物が欲しいとロシアさんが言ったのを理由に、都心の百貨店に行くことにした。
玄関でもうすでに靴を履いてスタンバイをしているロシアさんを見る。
よくみると、前にやった、例の手ぬぐいマフラーをぐるりと巻いている。
「おや、ロシアさん、それ」
ゆびをさすと、さも嬉しそうに、子供っぽい笑顔で答えてくる。
「うん、日本くんが作ってくれたやつ。この前は忘れてきちゃったから。今の季節にちょうどいいね!」
はは、まあね、ここは日本ですからね。
戸締まりを確認して、道路へ出る。
今日は、少し遠くに行かなければならないから、着物ではなく、黒のチノパンをはいて、イタリアくんに今年の誕生日に貰った(オーダーメイドだそうで、体に添うし、それでいて体の動きを邪魔しない。ちなみにお礼に彼の誕生日には、稚拙ながら着物を拵えて、帯など一揃えにして贈ったのだが、その日のうちに電話がかかってきて、数日後、パスタとトマトを携えて兄弟そろって着物でやってきたのには驚いた)お洒落なシャツとジャケットを着ている。これなら百貨店で呉服を見ていても、舐められることはない。(と、いってもほぼ顔見知りなのだけど)
対するロシアさんといえば、カーキの緩やかなチノパンに、ルーズに着こなした白シャツを、袖をこれまたうまい具合にさりげなさを感じるようにロールアップしている。なんですか、お洒落さんですか、あなた。こころの中で突っ込みはしたけれど、口は閉ざしたまま、近くに呼んでおいたタクシーに乗り込んだ。
「こら!」
タクシーに乗り込んだとたん、手を捕まえられて、とっさに怒る。
「こら?こらってなに?」
「・・・怒ってるんです。やめなさい、手を離してください。」
「やだ!」
そんなやりとりをしていたら、馴染みである運転手さんに、くつくつと笑われてしまった。
それほど時間もかからずに、最近は若者の姿も目立つようになってきた銀座で車をおりると、ついてきた筈のロシアさんが見当たらない。
「?」
あれだけ大男なんだから、すぐに見つかるだろう。ぐるり、と見渡すと、確かに彼はそこにいた。しかし。
(・・・・・なにやってんですかね、あのシロクマは・・・・)
「ちょっと、なにやってんですか!そんなところでガラス相手にマッスル見せつけないでくださいよ。ぜんぜんムキムキじゃないし・・・・。顎突き出したって、見えませんから!」
ショウウィンドウ相手にマッスルショーをしていたロシアさんを、捕まえて引きずる。後ろからは、間の抜けた、楽しそうな悲鳴が聞こえた。
「きゃ〜〜!あはは」
彼と並ぶと、自分はとっても小さく見える。道いく人が、珍しい大男に視線を奪われて、当然のごとく、私を見て値踏みするのだ。せめて性別を間違えてみられていないことを願いながら、視線の蜘蛛の巣をくぐり抜けた。
「日本くんったら、いきなりひっぱるんだもん、びっくりしたよ〜」
あはあは笑いながら、ロシアさんが言う。
その間の抜けた顔に、こちらまで口角があがるのがわかる。
「ぷっ。だって、あなたの、さっきのあの顔・・・・!」
二人して、道で立ち止まって笑い合う。お腹が痛い。
「ってうわあ!!」
ふわりといきなり体が浮いて、視界が反転する。何がどうなったのか分からなかったが、視界に映るのは、逆さまのロシアさんの後ろ姿と、地面。
「日本くん、だあいすき〜!」
と、行く当ても無くうふふといいながら走り出した。
ああ、なんだか米俵になった気分です、そう思いながら、そして、呆気にとられた通行人たちの視線をいたいほどに味わいながら、それでも、なんだか、まあ、いいか、と今このときの、訳の分からない幸せな二人の時間を満喫しようと、投げやりな悲鳴をあげた。
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