背徳の芳香
立日。
金木犀の季節です。。
金木犀の季節です。。
背徳の芳香
久しぶりの日本。
今年、一度、夏の暑い盛りにやってきてしまったせいで、かなり体力と精神力を消耗してしまい、気温の高い間はそれっきり、電話やメール、手紙などのやりとりの他は、一度だけ、彼が自国にやってきてくれただけである。
ようやく、日本は涼しくなったのだと、先日の電話のなかで、日本さんは嬉しそうに話していた。手紙にも、秋の花、コスモスの押し花が入っていて、丁寧な、そして美しい文字と一緒に紙の上を彩っていた。
こちらもずいぶん涼しくなって、白夜を終えた自国では、もうすでに10度を下回る日も出てきているし、日もどんどん短くなっていく。
まだ暖かさの残る日本に、どうしても行きたくなってしまった。こちらでは早回しで流れてしまって、ゆっくり感じることのできない狭間の季節を、感じたくなったのだ。そう思ったら、仕事もほっぽり出して、ヴィリニュスから飛び出していた。
空港からタクシーをひろい、訪れることを伝えておいた彼が、待ち合わせに、と誘ってくれた場所へと車で向かう。いつもなら、彼の家へちょっこうするのだけれど、今回は、めずらしく、日本さんから誘いを受けたのだ。
日本さんの家からほど近い場所にある公園。そこが待ち合わせ場所だ。
「あ、ここでいいです」
タクシーの運転手にそう告げると、日本さんみたいに人のいい笑みを浮かべる彼は、はい、と短く、けれど心をこめて返事をして、振動さえも感じないくらいに、静かに車を止めてくれた。
去ってくタクシーを見送りながら、公園に向かう。
静まり返った住宅街。
すこし傾いた日が、影をつくる。
「リトアニアさん!」
今、一番聞きたかった声がして、振り向くと、やっぱり、今一番あいたかった人が、手を振っていた。ボストンバックを持ったままの手で、手を振ると、彼は小走りでこちらにやってくる。
「いいですよ、走らなくて!」言っても、聞いてはくれない。
「こんにちは!お待ちしてました。」
はんなりと笑う彼が、とっても愛しい。俺もです、と言ったら、いっそう笑みを深くして、照れます、なんて憮然と言って退ける。
「今日は、見せたいものがありまして。」
何ですか?秘密です、ついてからのお楽しみです、というやり取りが続く。さりげなく手を握ったら、すこしびっくりした日本さんの顔。髪から覗く耳が、真っ赤だった。
公園につくと、なんだか言いようのないよい香りがする。
ふわり、ふわりと漂ってくるので、風にのってやってくるのかも知れない。不思議に思いながらも、日本さんの後に続くと、そこには、緑色の葉っぱの間に小さな花が群れになって咲いている木。
そして、近くに寄ればようやくわかる。この気がさっきからしていた匂いのもとなのだった。
「いい香りですね、」
そう言うと、日本さんは、うん、というみたいにじっくりと頷いた。
「これは、金木犀、といいまして。・・・まあ、中国さんからいただいたものなんですけど。秋といえば、この花・・・なのです。」
この季節になると、どこからともなく、風にのってこの香りが鼻腔をくすぐり、それでああ、もう秋も深まってきたのだな、と焦燥にも似た感情が胸に渡来するのだという。
確かに、夕暮れに、この香りをふとかいでしまったら、謂れもなく孤独と焦燥をかんじてしまいそうではある。
「うちには、雄株しかないのですけどね。本当は、雌株もあるんですって。」
「へえ・・・・」
帰る間際、日本さんは名残惜しそうにしながら、一枝、その金木犀を紙につつんで笑った。
「いいことを教えてあげます、リトアニアさん。この、金木犀の花言葉、をさがしてごらんになってくださいな」
「?花言葉、ですか?」
「はい。・・・・分かったら、お電話をください。」
首を傾げながら、帰る飛行機の中、手荷物の中から香る芳香に、嬉しい気持ちと、これからくるのだろう厳しい冬に思いを馳せた。
「ねえ、ヴィオレッタ、金木犀の花言葉を知りたいんだけど・・・」
秘書のヴィオレッタに、仕事の間にそう声をかけた。
日本に留学していた経験もあり、日本語の教師もしている彼女は、日本についてとても詳しい。
「はあ、金木犀ですか。いい香りですよね。私も、以前花言葉に凝っていたおり、調べたことがありますけど・・・・確か、「謙遜」「陶酔」「初恋」「真実」だったかと」
どうしてまた?というヴィオレッタの声を遠くの方で聞きながら、これを渡してくれたときの日本さんの顔を思い浮かべて、赤面するのを押さえられなかった。
「もしもし!日本さん!」
(おや、早かったですね・・・)
「もう、今からそっちにいきますから!!」
////////
爺は小粋です。
普段言葉に出さない分、こういうことして相手の度肝を抜いていればいい。
久しぶりの日本。
今年、一度、夏の暑い盛りにやってきてしまったせいで、かなり体力と精神力を消耗してしまい、気温の高い間はそれっきり、電話やメール、手紙などのやりとりの他は、一度だけ、彼が自国にやってきてくれただけである。
ようやく、日本は涼しくなったのだと、先日の電話のなかで、日本さんは嬉しそうに話していた。手紙にも、秋の花、コスモスの押し花が入っていて、丁寧な、そして美しい文字と一緒に紙の上を彩っていた。
こちらもずいぶん涼しくなって、白夜を終えた自国では、もうすでに10度を下回る日も出てきているし、日もどんどん短くなっていく。
まだ暖かさの残る日本に、どうしても行きたくなってしまった。こちらでは早回しで流れてしまって、ゆっくり感じることのできない狭間の季節を、感じたくなったのだ。そう思ったら、仕事もほっぽり出して、ヴィリニュスから飛び出していた。
空港からタクシーをひろい、訪れることを伝えておいた彼が、待ち合わせに、と誘ってくれた場所へと車で向かう。いつもなら、彼の家へちょっこうするのだけれど、今回は、めずらしく、日本さんから誘いを受けたのだ。
日本さんの家からほど近い場所にある公園。そこが待ち合わせ場所だ。
「あ、ここでいいです」
タクシーの運転手にそう告げると、日本さんみたいに人のいい笑みを浮かべる彼は、はい、と短く、けれど心をこめて返事をして、振動さえも感じないくらいに、静かに車を止めてくれた。
去ってくタクシーを見送りながら、公園に向かう。
静まり返った住宅街。
すこし傾いた日が、影をつくる。
「リトアニアさん!」
今、一番聞きたかった声がして、振り向くと、やっぱり、今一番あいたかった人が、手を振っていた。ボストンバックを持ったままの手で、手を振ると、彼は小走りでこちらにやってくる。
「いいですよ、走らなくて!」言っても、聞いてはくれない。
「こんにちは!お待ちしてました。」
はんなりと笑う彼が、とっても愛しい。俺もです、と言ったら、いっそう笑みを深くして、照れます、なんて憮然と言って退ける。
「今日は、見せたいものがありまして。」
何ですか?秘密です、ついてからのお楽しみです、というやり取りが続く。さりげなく手を握ったら、すこしびっくりした日本さんの顔。髪から覗く耳が、真っ赤だった。
公園につくと、なんだか言いようのないよい香りがする。
ふわり、ふわりと漂ってくるので、風にのってやってくるのかも知れない。不思議に思いながらも、日本さんの後に続くと、そこには、緑色の葉っぱの間に小さな花が群れになって咲いている木。
そして、近くに寄ればようやくわかる。この気がさっきからしていた匂いのもとなのだった。
「いい香りですね、」
そう言うと、日本さんは、うん、というみたいにじっくりと頷いた。
「これは、金木犀、といいまして。・・・まあ、中国さんからいただいたものなんですけど。秋といえば、この花・・・なのです。」
この季節になると、どこからともなく、風にのってこの香りが鼻腔をくすぐり、それでああ、もう秋も深まってきたのだな、と焦燥にも似た感情が胸に渡来するのだという。
確かに、夕暮れに、この香りをふとかいでしまったら、謂れもなく孤独と焦燥をかんじてしまいそうではある。
「うちには、雄株しかないのですけどね。本当は、雌株もあるんですって。」
「へえ・・・・」
帰る間際、日本さんは名残惜しそうにしながら、一枝、その金木犀を紙につつんで笑った。
「いいことを教えてあげます、リトアニアさん。この、金木犀の花言葉、をさがしてごらんになってくださいな」
「?花言葉、ですか?」
「はい。・・・・分かったら、お電話をください。」
首を傾げながら、帰る飛行機の中、手荷物の中から香る芳香に、嬉しい気持ちと、これからくるのだろう厳しい冬に思いを馳せた。
「ねえ、ヴィオレッタ、金木犀の花言葉を知りたいんだけど・・・」
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「はあ、金木犀ですか。いい香りですよね。私も、以前花言葉に凝っていたおり、調べたことがありますけど・・・・確か、「謙遜」「陶酔」「初恋」「真実」だったかと」
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「もしもし!日本さん!」
(おや、早かったですね・・・)
「もう、今からそっちにいきますから!!」
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爺は小粋です。
普段言葉に出さない分、こういうことして相手の度肝を抜いていればいい。
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リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
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