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益荒男の本気

伊日。
益荒男なんだから、にったま本気だしたら抱かれたくなっちゃうよ!
益荒男の本気




世界会議も漸く終わりに近づいてきた。
隣で居眠りすまいと格闘するのも諦めた兄が寝息をたてている。
眠い目を擦りながら、正面の席に座る、愛しい人に視線を移す。
日本の隣には、いつものようにアメリカ。反対側には、ロシアが座っている。
異様に二人の座る位置が彼に寄っている。
ロシアが日本の肩を抱いた。顔が近い。キス、しそうだ。
それに気がついたアメリカが今度は日本の手をとる。そして、甲に口づけを落とす。
日本はというと、嫌そうな顔をしているのに、抵抗はしなかった。
抵抗は、しなかった。
「チッ……ストロンツォ。」
もやもやと胸を支配する感情。配られていた資料を握りしめれば、くしゃりと乾いた音を立てた。


「日本、このあと一緒にご飯食べにいくんだぞ!」
当然のように、アメリカが日本の肩を抱いて出て行こうとする。反対側のロシアが冷たい空気を纏いながら、立ち上がった。
「なにいってるの日本くんは今から僕と食べにいくんだよ。」
「なんだい、また張り合ってるつもりかい?日本は俺と行きたいって、言ってるんだぞ!」
「はっ!自惚れも大概にしたほうがいいんじゃないかな?」
喧嘩を始めた二人の間で、日本は戸惑ったように眉をしかめている。
それもその筈、今日は二人でこのあと出掛ける予定だからだ。
でも、この調子じゃ無理かも知れない。
アメリカとロシアの話を聞きつけて、イギリスやフランス、中国までもが権利を主張している。
少しなんて控えめな言い方じゃあ足りないくらいに、苛々が募る。
(…どうしてはっきり言わないのかなぁ)
今日は予定がある、と。イタリアくんとご飯を食べにいきます、って。
こういう時、いつも自分はどうしていたっけ、と頭を巡らす。
嫉妬と独占欲にまみれた頭では、うまく思い出すことはできなかった。
「あのっ」
暗い感情に引き寄せられようとしていたその時、日本の大きな声がして、そちらを見る。
目が、あった。
絡みつくような視線。
(あ……なんか、目だけでヤッてるみたい)
「フェリシアーノくん、今日、このあと、予定がありますか?」
予定はある。もちろん、その相手は日本なのだから、わざわざこういう言い方をするのには訳があるだろう。それに、彼はいま、名前を呼んだ。号ではなく、真名を。「ヴェー…。どうして?」
計りかねてそう言うと、日本は本当に美しく、花が咲くように笑った。

「宜しければ、このあと二人で食事にでも、行きませんか?…あなたと行きたい店を見つけましたので。」
ツカツカとぐるりとこちらまでやってくると、優雅な仕草で顎を捉えた。普段からは思いもしない行動である。
「…あなたの食事の時間を、わたしが心に残る楽しいものにしても、よろしいですか?」
目の前には日本の美しいバター色の顔。黒々とした瞳に、長いお揃いの色の睫。
いつもは、抱きつけば真っ赤になるくらいに初で慣れないのに、こんなに、イタリア男もお手上げになるくらいに軟派だったろうか。いや、軟派なんじゃない、伊達男なんだ。ふらふらとついて行ってしまいたくなる。もっと言うなら、抱かれたい!
そう思ったのは自分だけではなかったらしい。隣でいつの間にか起きていた兄も、顔を真っ赤にさせているし、先程まで日本を口説いていた連中は仄かに頬を染めているし、スペインに至っては小さな声で「抱いて!」と曰っているのを聞き逃さなかった。
「…お、俺で…いいの?」
「勿論ですよ、イタリアくん。短い節と節との間のような短い間でも、あなたと過ごさずにはこの世を終えてしまうこともできません」
さっきまで感じていた暗い感情も、独占欲も、すっかり消えてしまった。
大きく頷くと、日本は手の甲にキスを一つ落として、さあ行きましょう、愛しい人、と言った。



「ねえねえ、にほん、さっきはどうしたの?」
食事が終わって、日本はイタリアの自宅である。
のんびりと二人、ベッドに寝そべって、開け放った窓から入る街の音や風を楽しんでいた。
「は…?と言いますと?」
「俺、あんなにドキドキしたの初めて!あっ日本といるときはドキドキしてるんだけど、いつもと違うドキドキね?日本がはいつも可愛いけど、抱かれたいっ!って思っちゃうくらい格好良かったんだ。」
「だ、抱かれたいって、あなた…」
本当にそう思ったんだよー!と、花を咲かせるように微笑むと、見ていた日本は頬を染めた。やはり、いつもの日本は、格好いい、よりも可愛い、がしっくりくる人だ。
「日本があんなこと言えるんだって、びっくりしちゃった。」
そう言うと、日本はため息を一つついて、笑った。
「言っておきますが、私にも若い頃はあったんです。…あなたよりも、女性経験は豊富だと思いますよ。」
「ヴェっ!えっえ?」
「……。ま、ご存知ないでしょうが。千年と少し前の話ですからね。」
意外な答えに、驚きが隠せないといったイタリアに、日本は苦笑する。
「いいじゃないですか。私の処女はあなたの物なんですし。今更もうあなた意外と関係を持ちたいとも思いませんから」
そう言うと、今度は真っ赤な日本に、イタリアは頬を染めて笑った。


難波潟 みじかき芦の ふしのまも あはでこの世を 過ぐしてよとや
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