雨の日には君の笑顔
伊日。
べつにどうにもなってない。
べつにどうにもなってない。
雨の日には君の笑顔
開け放った窓から、雨の匂いがした。
そういえば、彼の家はもう雨季に入ったろうか、と脳裏をよぎる。やんわりとした、しとしとと降る雨のような儚い笑顔が急に見たくなった。
この会議が早く終わればいいのに、とボールペンを鼻の下に乗せた。
じめっとした、高い湿度ではあるが、この季節としては涼しい気温のなか、家中がこの蒸気を吸い上げている気がする。
縁側に近いところにおいておいた洗濯物も、なんとなく湿っている。
外に出れないので、ポチくんも退屈そうに、外を眺めていた。
「さて、買い物に行きますか。」
もう時刻は17時を過ぎている。いつもなら早く買い物に出かけるのに、今日はこんな天気で、出かけるのが億劫でしかたなく、ずるずると過ごしてしまった。何をするにも気力が出ず、縁側を眺めるだけの1日だった。
ポチくんも、さすがにこの雨の中出かけるのは嫌らしく、耳をぴくりと動かしただけで、またうずくまって外に視線をもどしてしまった。
玄関に置いた傘を手に取り、いま、扉を開けようとした瞬間、取っ手に手をかけたつもりが、扉はがらりと開け放たれていた。
「……、」
「Ciao!」
目一杯の笑顔が目の前に広がった。
「ヴェネツィアーノくん?!」
「ヴェッ!」
「ど…どうしたんです?」
彼が連絡を寄越さないで訪ねてくるのはいつもの事だが、いつもは必ず呼び鈴を鳴らす。(以前ドイツさんに厳しくいわれたのだ「いきなり人の家の扉に手をかけるな!!呼び鈴を押せ!」と)
尋ねると、彼はまた一層笑顔になって、ずい、と買い物袋を持ち上げた。
「日本に会いたくなって。俺、ご飯作るから、上がっていい?」
「おや、まあ!丁度買い物に行こうと思っていたところです。…ぜひ、どうぞ。」
そう言うのを聞くやいなや、そそくさと(以前はそのままあがろうとしていたのに)靴を脱ぎ、一直線に台所へと行ってしまう。
「ヴェネツィアーノくん?」
覗くと、食材を並べているところだった。
「ヴェ~!今から作るね!今日はぜ~んぶ俺が作るよ!」
一体どうしたのだろう。突然のことに、嫌な訳ではないが、呆然としていると、相変わらず笑顔で、それをさらに深めて、キスを投げて寄越した。
「わっ」
「ふふ~!日本、ドキッとした?した?」
うう、していないと言えば嘘になってしまう。
「しっ知りません!」
「ヴェッ!耳まで真っ赤だよ~!」
食材を並べる手をとめて、彼は優しい手付きで頭を撫でた。
それからしばらくして、いい匂いとともに運ばれる料理たちで、狭い机は一杯になる。丁寧にナイフとフォークだけでなく、箸まで並べている。
今日はなにかめでたい日であったろうか。本当なら、今頃いつもの、白米、味噌汁、焼き物、煮物漬け物でも食べていた筈だ。
「ドルチェは後で出すからね!」
彼のくるん、が嬉しそうにふわりと揺れた。
「美味しそうですね!」
「うん!さ、食べよう!」
こちらの習慣に習い、二人して手を合わせて、ヴェネツィアーノくんはフォークを、私は箸を手に取る。
「おいひいれふれ!」
熱々のピッツァを頬張りながら、熱さで少し、目に涙が溜まる。ふにゃりと笑う顔と顔が向かい合い、はふはふといわせて食事をする。
なんとも幸せな時間である。
イタリア料理が一番好きだと、その時思った。
食事を済ませると、ドルチェとコーヒーをもってヴェネツィアーノくんがまたやってくる。
ついでに食器も洗ってくれていたらしい。
その間、何もすることもなく、ぼけっと、夏の近づく気配の遠い雨模様の外を眺めていた。
「素敵ですねえ、なんだか、魔法みたいですね。」
目の前のドルチェはとっても繊細で、口に入れるのがもったいないように思えるくらいだ。普段そんなに飲まないコーヒーの香ばしい匂いも
ここは自宅であるというのを忘れさせる。
「そう?」
こてり、と首をかしげて言うさまはなんだか本当に魔法使いのようだ。
「・・・どうして来てくださったんですか?」
恐る恐る、ドルチェを口に運びながら言うと、
「うん。急に見たくなって。・・・・日本の笑った顔が。」
と彼は、らしくなく、頬を染めていった。
開け放った窓から、雨の匂いがした。
そういえば、彼の家はもう雨季に入ったろうか、と脳裏をよぎる。やんわりとした、しとしとと降る雨のような儚い笑顔が急に見たくなった。
この会議が早く終わればいいのに、とボールペンを鼻の下に乗せた。
じめっとした、高い湿度ではあるが、この季節としては涼しい気温のなか、家中がこの蒸気を吸い上げている気がする。
縁側に近いところにおいておいた洗濯物も、なんとなく湿っている。
外に出れないので、ポチくんも退屈そうに、外を眺めていた。
「さて、買い物に行きますか。」
もう時刻は17時を過ぎている。いつもなら早く買い物に出かけるのに、今日はこんな天気で、出かけるのが億劫でしかたなく、ずるずると過ごしてしまった。何をするにも気力が出ず、縁側を眺めるだけの1日だった。
ポチくんも、さすがにこの雨の中出かけるのは嫌らしく、耳をぴくりと動かしただけで、またうずくまって外に視線をもどしてしまった。
玄関に置いた傘を手に取り、いま、扉を開けようとした瞬間、取っ手に手をかけたつもりが、扉はがらりと開け放たれていた。
「……、」
「Ciao!」
目一杯の笑顔が目の前に広がった。
「ヴェネツィアーノくん?!」
「ヴェッ!」
「ど…どうしたんです?」
彼が連絡を寄越さないで訪ねてくるのはいつもの事だが、いつもは必ず呼び鈴を鳴らす。(以前ドイツさんに厳しくいわれたのだ「いきなり人の家の扉に手をかけるな!!呼び鈴を押せ!」と)
尋ねると、彼はまた一層笑顔になって、ずい、と買い物袋を持ち上げた。
「日本に会いたくなって。俺、ご飯作るから、上がっていい?」
「おや、まあ!丁度買い物に行こうと思っていたところです。…ぜひ、どうぞ。」
そう言うのを聞くやいなや、そそくさと(以前はそのままあがろうとしていたのに)靴を脱ぎ、一直線に台所へと行ってしまう。
「ヴェネツィアーノくん?」
覗くと、食材を並べているところだった。
「ヴェ~!今から作るね!今日はぜ~んぶ俺が作るよ!」
一体どうしたのだろう。突然のことに、嫌な訳ではないが、呆然としていると、相変わらず笑顔で、それをさらに深めて、キスを投げて寄越した。
「わっ」
「ふふ~!日本、ドキッとした?した?」
うう、していないと言えば嘘になってしまう。
「しっ知りません!」
「ヴェッ!耳まで真っ赤だよ~!」
食材を並べる手をとめて、彼は優しい手付きで頭を撫でた。
それからしばらくして、いい匂いとともに運ばれる料理たちで、狭い机は一杯になる。丁寧にナイフとフォークだけでなく、箸まで並べている。
今日はなにかめでたい日であったろうか。本当なら、今頃いつもの、白米、味噌汁、焼き物、煮物漬け物でも食べていた筈だ。
「ドルチェは後で出すからね!」
彼のくるん、が嬉しそうにふわりと揺れた。
「美味しそうですね!」
「うん!さ、食べよう!」
こちらの習慣に習い、二人して手を合わせて、ヴェネツィアーノくんはフォークを、私は箸を手に取る。
「おいひいれふれ!」
熱々のピッツァを頬張りながら、熱さで少し、目に涙が溜まる。ふにゃりと笑う顔と顔が向かい合い、はふはふといわせて食事をする。
なんとも幸せな時間である。
イタリア料理が一番好きだと、その時思った。
食事を済ませると、ドルチェとコーヒーをもってヴェネツィアーノくんがまたやってくる。
ついでに食器も洗ってくれていたらしい。
その間、何もすることもなく、ぼけっと、夏の近づく気配の遠い雨模様の外を眺めていた。
「素敵ですねえ、なんだか、魔法みたいですね。」
目の前のドルチェはとっても繊細で、口に入れるのがもったいないように思えるくらいだ。普段そんなに飲まないコーヒーの香ばしい匂いも
ここは自宅であるというのを忘れさせる。
「そう?」
こてり、と首をかしげて言うさまはなんだか本当に魔法使いのようだ。
「・・・どうして来てくださったんですか?」
恐る恐る、ドルチェを口に運びながら言うと、
「うん。急に見たくなって。・・・・日本の笑った顔が。」
と彼は、らしくなく、頬を染めていった。
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店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
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