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土を踏む

西日。
親分は関西弁ですけど、私の親分は関西は関西でも、三重弁です。
おちは…ない。
土を踏む





「ええ、そうです着きました。今、空港です」
携帯電話の向こうから聞こえてくる明らかに動揺した声に、ほくそ笑む。
彼はどうしたのかと何度も聞いてきたが、それに答えることはせず、すぐに電話をきった。
今はまだ寒いこの場所は、季節が進に連れて、大地に灼熱の太陽が照りつけ、赤いそれをたわわに実らせる。
それなりの気候ではあるけれど、耳当てまでは必要なかったようだ。スーツケースを受け取ると、目的地に行くために、歩き始める。今日はいつもの彼の迎えがないから、きちんと行き着けるか不安ではあるが、それはそれ。陽気な彼の家の人間のことだ、聞けば、たとえ片言でも何とかしてくれるだろう。
「さて。」
ぱくん、と大きな音を立てて携帯電話を閉じる。
空港に背を向けて、タクシーに乗る。饒舌にスペイン語を操る運転手に、言葉少なに返事を返す。
窓から見える景色は自国とは当たり前だが全く違い、こんなに遠くにきたのだと感慨深くなる。
目印であるバルの前でタクシーから降りると、はずれかけていたマフラーを思い切って外した。ふっと冷えた空気が首筋を掠めて、思わず身震いする。
手土産と、大きなスーツケースを引いて、石畳の上を歩く。
人々が行き交う街は、とても、明るい。
「日本!」
大きな声が響いて、驚いて、道行く何人かと一緒に振り返る。
息を弾ませて、額に少し汗を滲ませる彼がいた。
「こんにちは、スペインさん。」彼は息をつきながら、直ぐに目の前までやってきた。
「どないしたん?いっつも先に連絡くれるやん」
困惑した声色なのに、日に焼けた顔に笑顔が見える。
「たまには、こういうのもいいかなと思いまして。…迷惑でしたか?」
背の高い彼を見上げながら言うと、彼は慌てて手を振った。
「そんなん!あるわけないやん!めっちゃ嬉しいに決まっとるやんか!」
「なら、いいんですけど。」
驚かせたい反面、もし迷惑だったならどうしようと不安で一杯だった。いつも、彼が来るのをまだかまだかと待っていたが、もしかするとそれはこちらだけだったかも知れないと。彼とはあまり周りに知られては居ないが、旧知の仲であったから、とうぜん信頼はしているが、ふとした時に、意思の疎通に不安を覚えていた。しかし、彼はそれを払拭するように、照れたような笑顔で答えた。
「うん、あのな、電話貰ったとき、めっちゃびっくりしたんやけど、せやけどめっちゃ嬉しかったで!日本はあんまりうちんち来やへんし、もしかしたら俺のこと実は嫌いやったんかも知れへんってな、思っとったん!」
スペインさんは、そう言いながら、傍らに置いてあったスーツケースをスマートに奪い、歩き出した。
「いや、それは…迷惑をかけてしまうのが申し訳なくて。いつも、迎えに来てくれるでしょう?」
「ん?うん…せやけど、迷惑なことあらへんのに」
スペインさんは振り返らずにそのまま言った。
「そうですか?でも、いつも家にいらして頂いてばかりですし、行ったら行ったでわざわざ毎回私を迎える為だけにお家から空港まで…たまには私から、一人でお邪魔するのも良いかと思いまして。」
言い切ると、丁度狭い路地を抜けて、彼の持つ広大な土地を背に建つ、家の前に着いたところだった。
「せやなあ、まあ、それはええことやんなぁ。せやけど、日本。俺嬉しかったけど、そのぶん心配したんやで?途中で変なんに襲われてへんかって。」
心配させるつもりはなかったので、この計画は成功したのか失敗したのかよくわからなくなってしまったが、まだ数回しか来たことのない彼の家に足を踏み入れた。
「はい…」
「まっそんなん何でもええんやけどな!」
ぽん、と頭の上に大きな手が置かれる。顔をあげると、はにかんだ彼の顔があった。
「もー心配かけやんといてな?俺、日本限定やけど、心配性やし。迎えに行くんも、楽しみのうちやしな。」
最後まで言い切らないで、彼は口づけを落とした。
頬に触れた唇の熱さに、思わず赤面した。
「日本、真っ赤やん」
彼は楽しそうに笑った。
今度この作戦を実行するときは、せめて、日付だけでも伝えておこう。心配させるのも忍びない。さり気なく腰のあたりをさ迷う手にぺしりと一発お見舞いしてから、手土産とともに口づけを返した。
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