空虚な朝
露日。ある日の朝
空虚な朝
彼はいつも、僕が起きたころにはもう隣から居なくて、いつも僕は幸せなのに空虚な気分で朝を迎える。
「日本くん、」
腕の中で眠っている彼は薄っぺらくなった紙人形みたいに白く滑らかでまるで昔一度だけあった彼の中身が居なくなった時のようだ。その瞳には何も映すこともなく、口を開くのもそのやり方を知らないみたいな、包帯と鎖でぐるぐる巻きだった時の彼のように。
昨日の晩、明日こそは彼より早く起きようと決めたのは、どうやら正解だったようだ。
彼の体には昨晩の名残。
蒼白な肌に散る赤い花が酷く艶やかに見える。
「僕、初めて会った時から君が欲しかったんだ。君は会ってもくれなくて、口もきいてくれなかったけど。縁側。あそこでこっちを伺ってたでしょう?」
独り言。答えないと分かっているからこそ言えること。頭のなかで、初めてみた時の情景が写される。
しかし、すぐにそれが独り言でなくなる。
「見えていたんですか。」
黒々とした大きな瞳がじっとこちらを見つめていた。
「起きたの?」
「ええ、まあ。あなたの体から甘い花の匂いがするので」
不思議な物言いは昔から変わらず。
「甘い?」
聞き返すと、素肌の胸に、日本くんの小さな鼻がすん、と息を吸うのと同じく、ちょこん、と当たった。
「あなたのところ、もう春が近いようですね。」
「そうなの?日本くんは相変わらず鼻がいいよね。風の匂いで季節が分かるとか言うし。」
桜貝の爪をやさしく立ててくる仕草が、まるで女の子みたい、と言うときっと怒るだろうなあ、と頭の隅で呟いた。
「気がつかないほうが不思議ですよ。」
「そんなことないよ。ねえ、それで、僕と初めて会った時、どうしてこっちを見てたの?通訳の人は、会わないから帰るようにって、言ってたのに。」
門前払いをうけて、しかたないと踵を返そうとしたとき、彼の姿が見えたのだ。
「…私は、私の民を救ってくれたからには会うべきだと思いましたし……ですが、長年引きこもっていたので、勇気がありませんでした。だから、こっそり見に行ったんですよ。」
ふっとわらう日本くんの息が胸にかかる。
「ふふ、くすぐったいよ、」
そのときは、こんなことになるなんて考えてもいなかったけれど、多分ずっと、探していたと思う。ひとりぽっちの自分を抱きしめてくれる人を。
冬の厳しいところにいたせいで、協調性に欠けるこの性格と、長い間虐げられてきた闇の歴史がいつも何かを、温もりを求めていた。独りで立ちすくんだあの時の自分に、もし会えるなら、こんなに幸せな今を見せてやりたい。
「ねえ、どうしていつも僕が起きるまで待っててくれないの?」
日本くんの黒い、絹のような髪を梳いて、問う。
日本くんはほんの少し閉口した後、早口で言った。
「恥ずかしいからにきまってます。」
彼はいつも、僕が起きたころにはもう隣から居なくて、いつも僕は幸せなのに空虚な気分で朝を迎える。
「日本くん、」
腕の中で眠っている彼は薄っぺらくなった紙人形みたいに白く滑らかでまるで昔一度だけあった彼の中身が居なくなった時のようだ。その瞳には何も映すこともなく、口を開くのもそのやり方を知らないみたいな、包帯と鎖でぐるぐる巻きだった時の彼のように。
昨日の晩、明日こそは彼より早く起きようと決めたのは、どうやら正解だったようだ。
彼の体には昨晩の名残。
蒼白な肌に散る赤い花が酷く艶やかに見える。
「僕、初めて会った時から君が欲しかったんだ。君は会ってもくれなくて、口もきいてくれなかったけど。縁側。あそこでこっちを伺ってたでしょう?」
独り言。答えないと分かっているからこそ言えること。頭のなかで、初めてみた時の情景が写される。
しかし、すぐにそれが独り言でなくなる。
「見えていたんですか。」
黒々とした大きな瞳がじっとこちらを見つめていた。
「起きたの?」
「ええ、まあ。あなたの体から甘い花の匂いがするので」
不思議な物言いは昔から変わらず。
「甘い?」
聞き返すと、素肌の胸に、日本くんの小さな鼻がすん、と息を吸うのと同じく、ちょこん、と当たった。
「あなたのところ、もう春が近いようですね。」
「そうなの?日本くんは相変わらず鼻がいいよね。風の匂いで季節が分かるとか言うし。」
桜貝の爪をやさしく立ててくる仕草が、まるで女の子みたい、と言うときっと怒るだろうなあ、と頭の隅で呟いた。
「気がつかないほうが不思議ですよ。」
「そんなことないよ。ねえ、それで、僕と初めて会った時、どうしてこっちを見てたの?通訳の人は、会わないから帰るようにって、言ってたのに。」
門前払いをうけて、しかたないと踵を返そうとしたとき、彼の姿が見えたのだ。
「…私は、私の民を救ってくれたからには会うべきだと思いましたし……ですが、長年引きこもっていたので、勇気がありませんでした。だから、こっそり見に行ったんですよ。」
ふっとわらう日本くんの息が胸にかかる。
「ふふ、くすぐったいよ、」
そのときは、こんなことになるなんて考えてもいなかったけれど、多分ずっと、探していたと思う。ひとりぽっちの自分を抱きしめてくれる人を。
冬の厳しいところにいたせいで、協調性に欠けるこの性格と、長い間虐げられてきた闇の歴史がいつも何かを、温もりを求めていた。独りで立ちすくんだあの時の自分に、もし会えるなら、こんなに幸せな今を見せてやりたい。
「ねえ、どうしていつも僕が起きるまで待っててくれないの?」
日本くんの黒い、絹のような髪を梳いて、問う。
日本くんはほんの少し閉口した後、早口で言った。
「恥ずかしいからにきまってます。」
PR
西條事情
店主:西條
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
メルフォは下にあります。
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
