忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

裏切りの約束

露日。
ww2の終わりかけ。
裏切りの約束


*
*
*
「嘘なら突き通して、それを真実にしてください。たとえ貴方が最期まで約束を守らなくとも、破るそのときまで真実だと、疑う隙もないくらいに信じさせてください。止まらない、歯車を止める事など私は遠に諦めてしまったから。どうか貴方が止めて下さい。願わくばその裏切りが幸福であることを。」


軍服にこびり付いた泥や、返り血はどんなに擦ったって消えずに、洗濯しても、血の汚れは綺麗に落ちずに、白い生地を薄汚れてみせた。洗っても洗っても、この手が冷えて感覚が無くなるまで洗っても消えないそれに、いつしか感覚は麻痺していた。
夏の、暑い盛りで汗が額から落ちるのに、一向に体温が上がる気がしない。暑い盛りと分かるのは、目の前にいる人々が汗をしきりに拭いたり、扇子で風を送ったりしているからで、この身に温度感はなかった。額から、水滴が落ちる。見れば影も濃くなり、相当日差しが強いと分かる。そんな最中に詰襟を一番上まできっちりと止めている姿は、きっと異常だろう。
手から、刀が滑り落ちた。
「一体何を待っているんだろう私は。」
いつの間にか、心が何かを待っていた。今か今かと待ちわびるのは、酷く胸が騒いで落ち着かない。脳裏に、白い彼が過った。
酷い約束をさせてしまった。今頃彼はどうしているだろう。彼が好意を抱いてくれていると知っていながら、そしてはた目にはそんなことを、一番しそうな彼がその実、そのような事に大きな体に似合わない小さな小さな心をズタズタに引き裂かれそうに痛ませていることも知っているのに無理矢理に結ばせてしまった。
もう、彼は許してくれないかも知れない。それがとても恐かった。いままでほたほたと当たる日の光のような眼差しをしていた彼の瞳が、冬のシベリアのように冷たくなってしまったら。
ぞくり、と背中に悪寒が走る。
ゆっくりと、ゆっくりと振り替えると、そこにはそのどちらでもない、泣きそうな目をして笑うロシアさんがいた。漸く、その時がきたのだ。
「ロシアさん…待っていました。」
ロシアさんは返事の代わりに眉間に一つ、皺を寄せて、溢れる涙で頬を濡らした。
「酷い約束をさせてごめんなさい。でも、どうせ駄目なら私は貴方の手にかかりたい。分かってください」
「日本くんは卑怯だよ…。だって、僕が君を欲しいって、愛してるって言っても絶対に一緒にならないって、言うのに。なのに、」
君と一緒になるために、僕に君を傷つけさせるなんて。そんなやり方で僕に君を奪わせるなんて。
耐えきれないロシアさんの紫色の、果物の飴玉みたいな綺麗な瞳から涙が後から後から流れ、くしゃくしゃになる。
「ごめんなさい。貴方にしか、頼めないんです。」
きっと、ここへ来る迄ずっと彼は沈み込んだまま悩み悩んだに違いない。心を砕かれた破片もそのままに。
「痛くないように、するから」
涙を拭うロシアさんが、何だかとても、愛しく思えた。
「…、有り難うございます」
短刀を抜いたロシアさんが、震える手でこちらへちかずいてくる。私の傍へ、距離が縮むにつれて、彼の震えは酷くなった。
「すこし、座りましょう」
たまりかねて私は言った。彼は安堵のため息をついて、すとん、と私の前に座った。
「はは、格好悪い…。いつもはすんなり出来てる事が、こんなに手が震えてるなんて。」
照れたような、困惑したような声。未だ微かに震える両手を眺めている。
「…抱き締めさせて。そしたら、ちゃんと言われた通りにするから」
ロシアさんは小さな子供のような仕草で言った。
一気に体温が上がるのを感じた。いままで温度を感じていなかったのが、確実に体温が上がったのが分かる。恐らく頬どころか、顔が真っ赤になっているだろう。この死の間近に、このような羞恥を味わうとは思いもよらなかった。
「、いいですよ。」
そう言うが早いが、気が付けばロシアさんの腕のなかにいた。ぎゅうぎゅうと潰れんばかりの力に、押しつけられた胸から心音が聞こえた。少し早く思えるそれに、今、この時、緊張し、恥ずかしいと思っているのが自分だけでないと安心した。これでなにも悔いはないような気さへする。
突然、腹部に小さな痛みと、灼熱に焼かれたような暑さが広がった。
「ん、く、」
痛くは無いが苦しくて、ロシアさんの一張羅だろう茶色のコートを握り締めた。
「ロシアさ、ん」
顔を上げてみれば、ロシアさんはまた泣いていた。それはもう、彼が死ぬのではないかと思うくらいに。
「はっ、はっ…ぁあ」
呼吸が荒くなり、上手く言葉を紡げない。必死に手を伸ばして、彼の涙を救ってやった。
「ろ、しあさ、私、ほんと…は!」
手が震えた。
「あなたのこと、ずっ…とお慕い、してま、した。」
力を籠めて、ぽかんとして涙を流している彼の唇へ、一つ触れるか触れないかの口付けをした。
「あいして、ます」
急に視界が薄れる。しかしその中でも、唇が彼によって塞がれたのはしっかりと感じることができた。先程したものより遥かに深い、濃密な口付けに荒い息がさらに乱れ、そして同時に意識さへも靄がかかってしまった。

重くのしかかる瞼に、あらがえず眸を閉じる。

再び開いたときは、ロシアさんの家であることを思いながら。


PR

西條事情

店主:西條

リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
メルフォは下にあります。

contact

何かありましたらこちらへどうぞ