束縛、甘美
露日。流血注意。
二次大戦
二次大戦
束縛、甘美
*
*
*
ロシアさんは何処にいても必ず私を見つけだして、その姿を目の前に大きく立ちはだからせて、大きな手のひらをこちらに差出し、笑顔で言う。
「みいつけた」
一度、どうしてなのか不思議に思って、訊いてみたことがあったが、理由を深くは応えてくれなかった。曰く、「赤い糸が見えるんだよ」だそうだ。しかしこの小指にも、体にも、どこにも見えないそれを簡単に信じるほど子供でも、純粋でもない私は、他の理由を探すのだ。
「私はあなたみたいな大きな国になりたかった」
そう言えば、ロシアさんはこれ以上ないくらいに笑みを溢した。そして、その言葉を私が忘れてしまっても、彼はずっと、片時も忘れはしなかった。
「それって僕と一緒になりたいってことかな。」
そう思うと、暗く寒いこの土地が何故か今更愛しく感じた。理解されない孤独も、愛されない寂しさも、全てが報われた気がした。
「日本くん、愛してる」
握った手のひらの温もりがまだこの手に残っている。無い物ねだりで閉じ込めた彼らは、今はもう居ない。皆心のなかで裏切りを続けていたんだ。しかしそれも仕方ない。何故なら、僕が無理矢理檻に入れたのだから。けれど、それ以外の方法は知らなかった。愛し方も、愛されるやり方も、とうに忘れてしまった。
がらんとした屋敷に1人で暮らすのは寂しい。会話に入らなくとも、同じ部屋にいなくとも、人の気配が感じられて、それによって得ていた安心。夢幻の安心。
あの一言で、全てが変わった。灰色の空は果てしなく続く破壊への道ではなく、青空を引き立てるためのもの。凍えるような寒さは確実に春へと向か一歩。全てが愛しい。狂いそうな程に愛しく、そして、欲しくなった。
「そうか、僕は出会ったときからずっと君のことが欲しかったんだ…それが分からなくて、」
こんな遠回りをしていたんだ。こんなに近くにいたのに、海の向こうにこんなに近くにいたのに気が付かなかった。握り締めた拳が、少しだけ冷えていく。触れた手の温もりを喪いたくなくて、忘れないように唇を寄せた。
「直ぐに、君の願いを叶えてあげるから」
そう呟いた。
「ああ、ロシア、さんやっと来てくれたんですね。」
血に染まった軍服は、日本君に似合いの白を台無しにしてしまった。けれど、それでも気高く見える。独り孤立してもなお、あらがい続けた体に、敬意さえ想わせる。
「うん。ごめんね、遅くなって」
日本くんが首をふった。彼も、分かっている。
「こんな、勝手をしては、いけないんでしょうけど、でも」
「大丈夫。僕がきみを守るから。誰にも文句は言わせないよ」
そう言うと日本くんは片手に持っていた刀から手を離して、武士もこれまでです。これからは貴方の言う、お嫁さん、なんですね。と言って疲れた顔に微かな笑みを浮かべた。そしてポケットから取り出した短刀に驚きもせずに、頷く。
「痛くして、いいですから」
ずぶり、と日本くんの体に柄まで吸い込まれた短刀は、溢れる彼の紅で軍服を染めて、そして短刀を握る僕の手も染めていく。まるで彼の手のひらのように温かい。
「もうこれで、君も、僕も1人じゃないよ。僕が君を止めて見せるから。絶対に、君を見捨てたりしないから。だから、これからも」
ずっと、一緒にいて、離れないで。
「愛してる、」
日本くんの唇に、口付けを落とした。幼い顔を照れてすこし染めて、小さな小さな蚊の鳴くような声でわたしもですよと言ったのを聞き逃さなかった。
*
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ロシアさんは何処にいても必ず私を見つけだして、その姿を目の前に大きく立ちはだからせて、大きな手のひらをこちらに差出し、笑顔で言う。
「みいつけた」
一度、どうしてなのか不思議に思って、訊いてみたことがあったが、理由を深くは応えてくれなかった。曰く、「赤い糸が見えるんだよ」だそうだ。しかしこの小指にも、体にも、どこにも見えないそれを簡単に信じるほど子供でも、純粋でもない私は、他の理由を探すのだ。
「私はあなたみたいな大きな国になりたかった」
そう言えば、ロシアさんはこれ以上ないくらいに笑みを溢した。そして、その言葉を私が忘れてしまっても、彼はずっと、片時も忘れはしなかった。
「それって僕と一緒になりたいってことかな。」
そう思うと、暗く寒いこの土地が何故か今更愛しく感じた。理解されない孤独も、愛されない寂しさも、全てが報われた気がした。
「日本くん、愛してる」
握った手のひらの温もりがまだこの手に残っている。無い物ねだりで閉じ込めた彼らは、今はもう居ない。皆心のなかで裏切りを続けていたんだ。しかしそれも仕方ない。何故なら、僕が無理矢理檻に入れたのだから。けれど、それ以外の方法は知らなかった。愛し方も、愛されるやり方も、とうに忘れてしまった。
がらんとした屋敷に1人で暮らすのは寂しい。会話に入らなくとも、同じ部屋にいなくとも、人の気配が感じられて、それによって得ていた安心。夢幻の安心。
あの一言で、全てが変わった。灰色の空は果てしなく続く破壊への道ではなく、青空を引き立てるためのもの。凍えるような寒さは確実に春へと向か一歩。全てが愛しい。狂いそうな程に愛しく、そして、欲しくなった。
「そうか、僕は出会ったときからずっと君のことが欲しかったんだ…それが分からなくて、」
こんな遠回りをしていたんだ。こんなに近くにいたのに、海の向こうにこんなに近くにいたのに気が付かなかった。握り締めた拳が、少しだけ冷えていく。触れた手の温もりを喪いたくなくて、忘れないように唇を寄せた。
「直ぐに、君の願いを叶えてあげるから」
そう呟いた。
「ああ、ロシア、さんやっと来てくれたんですね。」
血に染まった軍服は、日本君に似合いの白を台無しにしてしまった。けれど、それでも気高く見える。独り孤立してもなお、あらがい続けた体に、敬意さえ想わせる。
「うん。ごめんね、遅くなって」
日本くんが首をふった。彼も、分かっている。
「こんな、勝手をしては、いけないんでしょうけど、でも」
「大丈夫。僕がきみを守るから。誰にも文句は言わせないよ」
そう言うと日本くんは片手に持っていた刀から手を離して、武士もこれまでです。これからは貴方の言う、お嫁さん、なんですね。と言って疲れた顔に微かな笑みを浮かべた。そしてポケットから取り出した短刀に驚きもせずに、頷く。
「痛くして、いいですから」
ずぶり、と日本くんの体に柄まで吸い込まれた短刀は、溢れる彼の紅で軍服を染めて、そして短刀を握る僕の手も染めていく。まるで彼の手のひらのように温かい。
「もうこれで、君も、僕も1人じゃないよ。僕が君を止めて見せるから。絶対に、君を見捨てたりしないから。だから、これからも」
ずっと、一緒にいて、離れないで。
「愛してる、」
日本くんの唇に、口付けを落とした。幼い顔を照れてすこし染めて、小さな小さな蚊の鳴くような声でわたしもですよと言ったのを聞き逃さなかった。
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店名:三日月商會
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