忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鉱石

露日
季節外れ

鉱石



「あれ、日本、これ、なんだい?」
出し抜けにアメリカさんが少し間抜けな声で言った。
見れば、その指先には飾り棚の上に置かれた石。
「ああ、拾ったんですよ」
答え方が素っ気な過ぎたのか、興味を失ったように小さくふうんと言ってさっさと目当てのゲームを始めている。
何となくついてしまった嘘。
彼とは一等仲が悪いからこうするのは妥当だとは思うものの、胸の内には靄が残った。




数日前だった。
いつものようにロシアさんは突然やってきた。(むしろ突然やってきたりしないのはイギリスさんくらいかも知れない)
庭でぼんやりとまだ明けない残暑にぐったりとしながら寛いでいたところに、庭からではなく、家の中からするロシアさんの声。
「日本く~ん?」
振り向くと、いつものマフラーに長いコート姿…ではなく、白い開襟の長袖シャツに、柔らかい色のズボン。…に、いつものマフラーをつけたいたってラフな格好をしたロシアさん。
「えっどうしたんですかその格好…!」
思わず挨拶も忘れて問いかけると、嫌な素振りは一切なくにこりと顔を綻ばせて、
「日本は溶けるくらい暑いって聞いたから。」と言う。
「って言っても…あなた今まで夏の暑い時でも極寒装備だったじゃないですか…」
「いいの!も~そういう気分だったの。それでいいじゃない」
無理やりこの話題を切られてしまった。
「はぁ…まあ全く腑に落ちないです。が、お茶をいれましょうかね。紅茶にしますか?」
よいしょっと唇の先だけで言って向かいあう。
成る程、背も高く、色白な彼にはその服装はとても似合っていた。日本人が着たら、ちょっとでも外そうものなら一気に「おどれらどこの組のモンぢゃい」な人になりかねないし、極めてダサくなる可能性もある服装だ。一昔前ならみんなこんなもので、「好青年」だったというのに…時代の流れとは…さもありなん。
「麦茶でいいよ~冷えたやつがいいな」
「はいはい。」
それなら冷蔵庫の中にありますからすぐに持ってきましょう、と言いおいて台所に立つ。
縁側よりも幾分か涼しく、仄暗い台所は、小さな格子窓から青空を迎えている。冷蔵庫の中に入れておいた麦茶を、先日フィンランドさんから頂いた綺麗な透明なコップに注ぐ。
こくこくと音を立てて満たされていくコップに、格子窓から吹き込む生暖かい風が当たって波打ち、海が脳裏をよぎった。
「…っ!」
突然の、衝撃に、注いだばかりの麦茶が零れた。
「ロシア、さん?」
辛うじて、彼のきているシャツの肩が見える。下を見れば、腰に回された大きな手。
「…突然は、困ります」
極めて冷静を装いながら言う。声が震えているのが明らかだが。
「うん。」
ふっとつむじにかかる彼の鼻息。きっと笑っているのに違いない。
「離してください。お茶が飲めませんよ、」
そう言うのに、彼は聞こうとしない。
いつのまにか置いてあった麦茶のグラスを、私を逃がさないように片手と体で押さえながらもう片方で飲んでしまっていた。「あ~美味しかったぁ!」

「行儀が悪いですよ」
呆れかえって言えば、そんなのはロシアには無いよ、と、かわす。
相変わらず日本くんは細いよね、なんて言ってくるものだからまた体温が上がる。
ちら、と見たら、青空の下、揺れるひまわりがこちらを見ていた。
「ロシアさん、ところであなた、何をしにきたんですか」
仕方がないのでそのまま背後に彼をくっつけたまま、顔も見ずに問うた。彼はしばらく黙ったまま、私の旋毛に鼻を埋めていた。
「…うん、これをあげようと思って」
すい、と目の前に出されたのは、淡い色をした鉱石だった。
「…綺麗ですね。…私が頂いてもいいものなんですか、」
ロシアさんの大きな手から、そっと摘んで手のひらにのせる。
一瞬触れた彼の手は、何時もより温かかった。
甘い氷砂糖のように輝く鉱石はとても魅力的だった。そして、どこか、いまだ旋毛に鼻息を吹きかけてくる彼を思わせる。
「なぜこれを私に、…誕生日はまだ先ですが。」
「別に意味なんてないよ。あげたかっただけ。綺麗な石だから。」
あっけらかんと言う彼の理由はきっと本当だと思った。純粋無垢なのだ。
「そうですか…では、ありがたく頂戴するとします。」
それにしても、いつまでそうしている気ですか、と言うと、ロシアさんは旋毛にキスを落として、「ずっと!」なんて言った。
それから、彼を団子のようにくっつけて居間へ移動し、棚の上に飾ったのだった。
座ろうとしても、上手く行かず、結局彼の思いのまま、気づけば私はロシアさんの脚を跨いで座っている。
「気に入った?」
嬉しそうに紫色の瞳を輝かせて言うものだから、早く離しなさいとか、近いですとか茶化すことも出来ずに、真っ赤に成っているであろう顔を伏せて、
小さく小さく
「はい、」
と言ったのだった。


でも本当は。
鉱石よりもずっと、ロシアさんが素敵で目に焼き付いていた。





「にほーん!お菓子がないよー」
居間からアメリカさんの声がする。
私はため息をついて、今淹れたばかりのお茶に、アメリカさん好みの甘い甘いお菓子を持ってその場を離れた。
PR

西條事情

店主:西條

リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
メルフォは下にあります。

contact

何かありましたらこちらへどうぞ