未明童話
未明童話の題名をネタに
露日で
露日で
野ばら
空は晴れ渡り、清々しいくらいに雲一つなく、ぼんやりと見上げて居れば、柔らかい風が、茂る野ばらの側を通り抜けていった。
照りつける太陽は厳しい程ではなく、背を預けている赤レンガの建物の影でゆっくりと時がながれていく。
眸の先の、揺れる海が無ければ、時が止まったかと思ってしまう。
どこか懐かしく、しかし異様な光景に、頭の後ろがしゅわしゅわとして、上顎にじりりとした感触が広がった。
もうそろそろ行こうか、と思って立ち上がろうとするけれど、上着の裾を握られて、立ち上がりそこねてしまった。
「まだ、いいよね」
戦争が始まったらしい。と風が告げて、それではいよいよ仕様がないと立ち上がった時に、もう少しだけと乞われて、留まったのだった。
「あなた、そう言いますがそれから暫くたっているんですよ。敵同士になっては仕様がないのですからあきらめてください。」
ゆらゆらと風にゆられて、白銀の髪が流れる。
「僕たちは関係ないじゃないか」
「そういう訳にはいきません。貴方は若いからわからないのですね。」
淡い色はまるで空を映し撮ったような碧色をしている。
当人だけの問題ではないのだと言っても、彼は一向に聞き入れはしない。
いつかこの、まとう軍服が消えてなくなったのならよかったと思う。
握られている手を、やんわりと外すと、彼は泣きそうになってこちらを見てる。
それを胸に焼き付けて、私はこの隠れ家から背を向けた。
後には、野ばらが揺れるばかり。
眠い町
季節の変わり目に、一気に冷たい空気が部屋の中を飲み込んだ。
今までとは打って変わって、ぴんと張った空気はどこまでも澄んで、遠くで鳴く鳥の声を運び、他には時折車の通る音しかしない静かな部屋を彩った。
まだ体が重い。
ゆっくりと寝返りを打てば、目の前に白い肌が見えた。
髪と同じ薄い色の、細く、柔らかそうな体毛が、ふんわりと肌を覆っているのが見える。
肩にかけられた腕を辿って、視線を上げると、整った顎、うっすらとあいた唇。
今は閉じられている、瞼の下の青色と言うには勿体無い、独特の色をした眸。長い睫。
ふと、突然にその眸が開いた。
「あっ…」
ん…。なぁにと甘い声で問いかけてくる。寝起きの、くぐもった声。
気づかれたことが気恥ずかしく、その今し方現れた美しい色の眸に見惚れていることがなんとも、思わず顔を伏せてしまう。
居たたまれずに、目の前の広い胸板に顔をうずめた。
「ん、ふ、くすぐったい…」
そう言いながら、大きな手が髪をかき混ぜて。
大きな碧い眸が近づいて、やがて視界は真っ暗になる。唇には温かい感触。
「まだ…起きるには早いよ…」
「はい…」
明け方の空気に、温かい体温と鼓動。
ゆっくりと微睡み始めた。
月とあざらし
海が、銀色に凍てついた。
太陽は姿を消してしまっている。何月経ったろう…。
人々も力なく、憂鬱そうに空を見上げて溜息をつく。
毎日、雪だった。
この大地が凍てつくのは、誰の仕業だ。
性懲りもなく恨み言ばかり言うのなら、出ていけと思う。
でも、一人になりたくない。
(僕だってこの季節は好きじゃない。…嫌い。大嫌いだ。みんながよってたかって僕を嫌って。)
「おや、ロシアさん。」
聞き慣れた声に、ゆっくりと口に笑みが溢れてくる。
振り返ると日本君。
ロシアでの生活に欠かせないとも言える毛皮の耳当てのついた帽子を小さな頭に。着膨れしてもこもこした胴体、ミトン。
「あは、は、日本くん」
何だか気が抜けてしまった。
暗い気分が何処かへ行ってしまったようだ。代わりに途轍もない喜びと少しの疑問が押し寄せる。
「どうしたの、何でここに?僕の居場所が分かったの?」
「…えっと、今、私の国は猛暑なんですよ。それで!」
「猛暑って…もう10月だよ?」
不思議に思って言うと、日本くんは何か、拙いと言った具合で慌て始める。
「…もしかして…僕を心配して?」
そうに違いない。彼はそう言う人柄だ。
そう思うとますます胸が幸福感に満たされていく。
「以前、冬はお嫌いだと聞きましたので…お一人では辛かろうと…」
俯きながら、ほんのりと頬が、この寒さの所為か、それとも他の…所為なのか、色づいた。
やはり、彼というひとは…!
たとえ上司同士の中が良いとは言えなくても、彼は隔てない。
「あ、そうだ、ウォトカ飲むかい?温まるよ?」
携帯用の、飛びきりのウォトカを差し出す。彼は嫌そうに眉間にシワを寄せるくせに、言葉だけはやんわりと、辞した。
「うーん…」
それでも、そのあかくなった頬や鼻だとかを見ていると
「ああ、もう!…じゃああなたのコートに入れてください。」
「えっ」
「あなたは変なところが鈍くてこまります」
あは、そうかな、
コートを無理やり開け放たれてぶるり、とした次の瞬間には、温かな人の体温。
ぼくはもううれしくてたまらなくなって、ぎゅっと抱きしめた。
空は晴れ渡り、清々しいくらいに雲一つなく、ぼんやりと見上げて居れば、柔らかい風が、茂る野ばらの側を通り抜けていった。
照りつける太陽は厳しい程ではなく、背を預けている赤レンガの建物の影でゆっくりと時がながれていく。
眸の先の、揺れる海が無ければ、時が止まったかと思ってしまう。
どこか懐かしく、しかし異様な光景に、頭の後ろがしゅわしゅわとして、上顎にじりりとした感触が広がった。
もうそろそろ行こうか、と思って立ち上がろうとするけれど、上着の裾を握られて、立ち上がりそこねてしまった。
「まだ、いいよね」
戦争が始まったらしい。と風が告げて、それではいよいよ仕様がないと立ち上がった時に、もう少しだけと乞われて、留まったのだった。
「あなた、そう言いますがそれから暫くたっているんですよ。敵同士になっては仕様がないのですからあきらめてください。」
ゆらゆらと風にゆられて、白銀の髪が流れる。
「僕たちは関係ないじゃないか」
「そういう訳にはいきません。貴方は若いからわからないのですね。」
淡い色はまるで空を映し撮ったような碧色をしている。
当人だけの問題ではないのだと言っても、彼は一向に聞き入れはしない。
いつかこの、まとう軍服が消えてなくなったのならよかったと思う。
握られている手を、やんわりと外すと、彼は泣きそうになってこちらを見てる。
それを胸に焼き付けて、私はこの隠れ家から背を向けた。
後には、野ばらが揺れるばかり。
眠い町
季節の変わり目に、一気に冷たい空気が部屋の中を飲み込んだ。
今までとは打って変わって、ぴんと張った空気はどこまでも澄んで、遠くで鳴く鳥の声を運び、他には時折車の通る音しかしない静かな部屋を彩った。
まだ体が重い。
ゆっくりと寝返りを打てば、目の前に白い肌が見えた。
髪と同じ薄い色の、細く、柔らかそうな体毛が、ふんわりと肌を覆っているのが見える。
肩にかけられた腕を辿って、視線を上げると、整った顎、うっすらとあいた唇。
今は閉じられている、瞼の下の青色と言うには勿体無い、独特の色をした眸。長い睫。
ふと、突然にその眸が開いた。
「あっ…」
ん…。なぁにと甘い声で問いかけてくる。寝起きの、くぐもった声。
気づかれたことが気恥ずかしく、その今し方現れた美しい色の眸に見惚れていることがなんとも、思わず顔を伏せてしまう。
居たたまれずに、目の前の広い胸板に顔をうずめた。
「ん、ふ、くすぐったい…」
そう言いながら、大きな手が髪をかき混ぜて。
大きな碧い眸が近づいて、やがて視界は真っ暗になる。唇には温かい感触。
「まだ…起きるには早いよ…」
「はい…」
明け方の空気に、温かい体温と鼓動。
ゆっくりと微睡み始めた。
月とあざらし
海が、銀色に凍てついた。
太陽は姿を消してしまっている。何月経ったろう…。
人々も力なく、憂鬱そうに空を見上げて溜息をつく。
毎日、雪だった。
この大地が凍てつくのは、誰の仕業だ。
性懲りもなく恨み言ばかり言うのなら、出ていけと思う。
でも、一人になりたくない。
(僕だってこの季節は好きじゃない。…嫌い。大嫌いだ。みんながよってたかって僕を嫌って。)
「おや、ロシアさん。」
聞き慣れた声に、ゆっくりと口に笑みが溢れてくる。
振り返ると日本君。
ロシアでの生活に欠かせないとも言える毛皮の耳当てのついた帽子を小さな頭に。着膨れしてもこもこした胴体、ミトン。
「あは、は、日本くん」
何だか気が抜けてしまった。
暗い気分が何処かへ行ってしまったようだ。代わりに途轍もない喜びと少しの疑問が押し寄せる。
「どうしたの、何でここに?僕の居場所が分かったの?」
「…えっと、今、私の国は猛暑なんですよ。それで!」
「猛暑って…もう10月だよ?」
不思議に思って言うと、日本くんは何か、拙いと言った具合で慌て始める。
「…もしかして…僕を心配して?」
そうに違いない。彼はそう言う人柄だ。
そう思うとますます胸が幸福感に満たされていく。
「以前、冬はお嫌いだと聞きましたので…お一人では辛かろうと…」
俯きながら、ほんのりと頬が、この寒さの所為か、それとも他の…所為なのか、色づいた。
やはり、彼というひとは…!
たとえ上司同士の中が良いとは言えなくても、彼は隔てない。
「あ、そうだ、ウォトカ飲むかい?温まるよ?」
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「うーん…」
それでも、そのあかくなった頬や鼻だとかを見ていると
「ああ、もう!…じゃああなたのコートに入れてください。」
「えっ」
「あなたは変なところが鈍くてこまります」
あは、そうかな、
コートを無理やり開け放たれてぶるり、とした次の瞬間には、温かな人の体温。
ぼくはもううれしくてたまらなくなって、ぎゅっと抱きしめた。
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西條事情
店主:西條
リンク:同人サイト様のみ
店名:三日月商會
アドレス:http://blaueterra.blog.shinobi.jp/
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