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三六五題 40 から43、 46

365題

露日と瑞日一点

多少危険な表現アリ


*

040. いつかを夢見て



「貴方の夢はなんですかって、聞いて?」



「…なんですかいきなり」

この夏のコミケで出す新刊の構想を練りながら庭に花の種をまいていたら、ふいに出来た日陰。

おや?と顔を上げた先には、白を多く含んだ金の髪に、白い、すこし暑苦しく感じる長袖に、またまた暑苦しいマフラーまで巻いた、背の高い青年、ロシアがいた。

そして挨拶もしないでそんなことを言う。

聞き返しても、「早く~」と言うだけで、理由は言わない。



「…あなたの夢はなんですか?」

にっこり、と本当に嬉しそうに笑った。



(あ、花が咲いた)



「僕の夢はね、ひまわりが咲いていて、暖かい場所に住むことなんだよ~」

「おや、」

これはちょうどいいな、と日本は頭の片隅で即座に考えて答えを出した。

「それは大変いい夢です。ので、そんなあなたにこれを」

「なぁに?」



「ひまわりの種ですよ。今年の夏も咲くように種を植えてるんです。はい、どうぞ。ここら辺に植えて下さい。」



素早く文句を言う暇がないように手渡して植える予定の場所を指さすと、案外素直に受け取り、植え始める。

楽しそうな様子を、日本はどこか悲しいように思った。



(良く知らないけれど、彼の国には咲かないのだろうか…)



「じゃあ、ロシアさんが植えたところのひまわりが咲いたらご連絡しますよ。夏の間は私のところも暑いですし…特別に泊めてあげますよ。…ささやかではありますが私もあなたの夢に少しは協力します。」



「えっ本当?やったぁ」

いつか、あなたの夢が叶うといいですね、心のなかで祈りを捧げながら。





(ちなみに私のところは湿度もそれなりにありますから、気をつけてくださいね。フィンランドさんは溶けてしまいましたし…)

(そんな、未経験だもの気のつけようがないよ~)









041. 君が壊れる日



いまだ罪の意識の消えない君は、まだ周りに対してとても小さく、小さくなっている。

別に、君だけが悪い訳じゃない。時代だったのだ全ては。

けれど、世界を一つにするためには一つの敵を作る必要があった。



君は、目立ち過ぎた。



僕は君が抜け殻になってアメリカの世話になっているのが、とても悔しい。

仕留めたのが僕だったら、こんなに酷いことにらならなかった筈だ。憎まれても、二度と笑ってくれなくても、君のあんな姿は見なくて済むようにしたのに。

時代遅れかもしれないけれど、まだ刃物の傷の方が小さくて済んだ。

僕は、今でも覚えてる。

僕が傷つけたところから流れる血を押さえながら、睨みつけてくる強い瞳に、一歩歩みよったその瞬間に、

いっせいに君の着ていた白い軍服に広がる血の痕。足元が黒く染まって、嫌な匂いが鼻をついた。

「ぅあああっ…!」



「えっなに…これ?日本くん?」



肩に手をかけた瞬間。

また別の場所から燃え上がる。

尋常でない苦しみ方に、どうしようもなかった。

気がつけば日本くんはアメリカに連れ去られた後だった。

「…ロシア、さんですか」

包帯でまかれた右目が痛々しい。いつもはきっちりと合わされている襟元は珍しく緩められ、そこからのぞく包帯はやけに白く見えた。



「やあ…結局、アメリカに盗られちゃったな」



「…」

見返してくる瞳に、力がない。

「僕も君が欲しかったんだけどなぁ。」

「私は…誰の物にもなりませんよ」

「でもさ、これって結局君はアメリカの物ってことじゃない。そんなのずるいなぁ~。僕はアメリカ達より前から君のこと好きだっていってたのに」

初めて会った時からずっと。彼らが日本に目を向ける前からずっと。



その思いを汲み取ったのか、そうでないのか、日本くんは少し戸惑ったようにしていたけれど、何事か考えたそぶりをした後、じゃあ、こうしましょうか。

と、マフラーをいじっていた右手を、小さな日本くんのが掴む。

「あなたが、私の左手を掴んで離さないでいてくれたら、次に私に何かあったら、すぐにわかるでしょう?」

「いいのかな?そんなこと言うと、君の上司が離せって言ってきても、僕離さないよ?」

小さな手は、すべらかで、白くて、やはり小さな桜色の爪が、すごく愛らしい。

「それでいいんです。次は、あなたが私を、」

「日本くん?」

心なしか、君の目が赤く見える。

「私はあなたのその、本当はとても、底の見えない程の優しさを持っていて、温かく無邪気で、そして自分に素直であるところがとても……心底…羨ましい。もしも私があなた程に大きな国だったなら、それの一部だったら、こんなことにはならなかった。」

「いつかロシアにしてあげる。」

傷が痛まないように、やんわりと抱きしめる。日本くんの額が、ことり、と肩口に当てられる。



「嫌です。」

「ええっ」

「私がロシアになったら、私は消えてしまいます。…あなたの、向日葵みたいな温かい笑顔が見えなくなるのは嫌ですから。」



「…君だけだよ、そんなこと言うのは。…だから好き。あいしてる。」







君が依存と孤立の末に壊れたら、迷わず君を僕のものにしてあげる。

それまでは、この右手と左手は繋いだままで。









042. 夜の獣



「日本くん…、」

『っあっ…!…も、無理、です、離して…っ』

「僕はまだ平気、だよ」

『ろ、しあ、…さん』

ぐっとスピードをあげて、高鳴る心臓。

今目の前に見えるのは白いシーツだけ。

限界まで高まった後、ど、っと開放感が全身を包んだ。

肌にふれる布にでさへ鳥肌が立つ。



遠くの国で、今頃布団を被って健やかな寝息を立てているであろう人を思った。



「僕の物になればいいのに」









043. 騎士



「いい加減にしていただきたい。」



スイスが目の前で仁王立ちして言った。

一体なんのことを言っているのかよくわからないので、ぽかんと口をあけて見上げれば、

「口を閉じよ!」と叱られた。

「どうしたんです…?」



「どうしたではないである!我輩の邪魔はさせないである!」

「えっ邪魔なんてそんなちが…!」



「ええいっ!」



ターン!と音を立てて銃声が高らかに響いた。






「…と、いう夢を見まして」

非常に悲しげな顔でうなだれる日本のその夢の話。

ありえない話。

「安心するがよい。我輩は誰にも味方せぬ。が。日本、お前は特別だ。」

「…」

「リヒテンシュタインは妹だが、お前は…そうだな、弟…ではなく…その…なんだ…あれだ…」

どうしても肝心な言葉は出てこない。

そうこうするうちに日本は笑って好きですよ、と一言。







「…我輩もである。」








046. 高潔さを穢すように



彼は、ぎゅっと、目を瞑る。

その瞬間に襲い来る鋭く内側から叩きつけられる痛みと、いままさに侵入してくる熱い鉄杭の質量に喘ぎながら。

その形が、中からはっきりと分かるだろう。

思わず息を飲み、唾を飲み込み上下するその喉元に食らいつくようにして、きつく吸い上げる。そうすれば、彼は苦しそうに、唇を噛んだ。



背徳的な行為だとわかっている。何の生産性もない。

そもそも「国」という立場の自分に、これが許される筈がないのに。

いつだって国は国以外の何でもない。けれど、国民の感情なのか、強く恋い焦がれるのだ。

国土的にではなく、一人の人として、彼が欲しかった。…と思う。本当のことは分からないんだけれど。

日本君の細い腕が、背中に廻される。そして痛いくらいに爪を立ててくる。



膝の裏を掴んでいた手で、黒く輝く髪をかきあげてやる。

額に浮かぶ汗を唇で拭ってやると、シワのよっていた眉間が、ふわりと和らいだ。



「すき、」



小さく呟いた。



この高潔さを汚して汚して汚してしまえば、

いつか彼は国でなくなるだろうか。





僕らが国とは別の存在で、

たまたま日本からロシアに渡ってきた菊くんが、僕と出逢って惹かれあう。

そんな単純なラブストーリーだったらどんなにかよかっただろう。



もう、考えるのが厭になった。





考えるのは、深く繋がれる瞬間のことだけでいい。





僕も、君も。
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